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紅い部屋
第13章 11月上旬━ひよこからニワトリ━
なんとなくあれから足が遠ざかっていたバーに寄ってみた。
「いらっしゃい、今日はひとり?」
カウンターからシンさんが迎えてくれる。
週の半ばだからか、私の他にお客さんは一組だけのようだ。
週末に入ってるアルバイトスタッフもいない。
今夜は当直だから後から来る訳でもないのに、圭吾さんがいつも座っているチェアの隣に座ってコーラとピザトーストを頼んだ。
やっぱりここは私が安心出来る所のひとつだ。ひとりでもリラックス出来る。ショーがなければ、だけど。
対面にいる男女の会話が聞こえてくる。
どうやら男性が口説いているようで女性の方はそれを楽しんでいるように見えた。
「いじめられるのが好きなんでしょ、俺言葉責めとか得意だよ」
「え〜やらし〜うふふ」
圭吾さんは絶対言わないトークだ。
Sの人も色んな人がいるんだなぁ。
チーズがたっぷりかかって溢れ落ちそうになってるピザトーストを2枚とタバスコの瓶をシンさんが持ってきてくれた。
「圭吾さんはタバスコたくさんかけそう」
私はかけずに厚切りトーストにかぶりついた。パンの焼けた香ばしい匂いと伸びてなかなか切れないチーズが濃厚で美味しい。
「そうそう。香辛料好きよね。ピラフに胡椒ガンガンかけてるの見た」
「こないだ一緒にご飯行ったときもお肉にかけてました」
ペッパーミルを回すポーズを真似た。
「仲良くしてるのねケイ君と。僕も嬉しくなっちゃう」
仲良く…私の気持ちを伝えたら今までと同じ様にはもう仲良くしてもらえないかもしれない。
「どうしたの?ケンカでもしたの」
ううん、と首を横に振った。
「シンさんは、特定のパートナーとかいますか」
今度はシンさんが首を振った。
「僕はよく“快楽主義”だって言われる。責めも受けもするし相手は男性女性問わずだし」シンさんは自分の分のハイボールをひと口飲んだ。「だから相手はこういう僕でもOKな人に限られちゃうし、色んな人と出会いたいから1人にずっと、はないかなぁ」
SでМでBってことなのかな。
十人十色じゃないけど、ひとりひとり嗜好が違う。
だからお店の“お約束ごと”にあった“他のお客様の性癖を蔑む発言は厳禁”なんて文言をわざわざ入れているのかもしれない。