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紅い部屋
第14章 11月中旬【圭吾と佐和】砂上を歩く
今日は海が見たいという彼女のリクエストに応えてドライブコースを組み立てた。
聞くと家族旅行以外で遠出をしたことがないらしいし、ベタなルートだけどお台場から海ほたる経由で対岸まで走らせてみよう。幸運な事にぽかぽかと天気もいい。
彼女の最寄り駅近くでハザードを着け停車する。
私鉄の割と新し目の駅舎。人より交通量が多いがスーパーやドラッグストアもあって生活はしやすそうだ。
しばらくしてバックミラーにこちらに向かって走って来るトレンチコート姿の彼女を捉えた。
予め車種と色は伝えてあるが、助手席側の窓からこちらを覗き込んで俺の顔を確認すると安心した表情でドアを開けた。
「今日は宜しくお願いします」
ぺこりと頭を下げて、どうぞと温かいペットボトルのお茶とおやつだとアーモンドチョコを差し出してくれた。小腹が空いてたからありがたい。
車をゆっくりと出す。
やがてレインボーブリッジに入ると彼女はへばりつくようにして窓の外を眺めている。
「わぁ、船と並走してる!」
嬉々として何度も振り返りながら話しかけてくる。
素直に楽しそうにしてくれているのがわかるとこちらも嬉しくなってくる。遠足で園児を引率する教員はこんな気分なんだろうか。
海ほたるで休憩してデッキに出ると湾の中心だからか風が強く、彼女のふわふわのくせ毛が顔周りでくるくると踊った。
「ひゃ〜」両手で一生懸命頭をおさえながらケラケラ笑っている。
2人きりの時でもよく笑ってくれるようになった。
何だか生き辛そうにしている彼女が、俺と話をすることで少しでも楽になれば。
彼女に誰かパートナーが出来るまでのつなぎでもいいかな、と思った。
ランチを済ませて砂浜のある海岸へ再び車を走らせる。
車内に戻ってからの横顔は何か考え事をしているように見えた。