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紅い部屋
第14章 11月中旬【圭吾と佐和】砂上を歩く
11月だというのに穏やかに暖かい日で、海岸の波の音ものんびりしているように感じる。
私達の他に小さな男の子を連れた若い夫婦が波打ち際で遊んでいる。
圭吾さんの背中を見ながら砂を踏む。
もう決心はついていた。
ただ、タイミングや最初の言葉が決まらない。
「砂浜を歩くのなんて何年ぶりだろう」
背中がふいに振り返り目が合い、咄嗟に逸らした。
「圭吾さん…」
「どうしたの」
「あの、すみません」
「うん」
「圭吾さんには今どなたかお相手、いらっしゃるんですか」
ついに聞いてしまった。
「特定の相手はここ数年いないかな」
思わず頬が緩んでしまう。
「聞きたいことや言いたいことがあるなら遠慮なくどうぞ」
そうこちらを覗き込んで私と目が合うと両方の口の端を上げた。
圭吾さんに気付かれないように深呼吸する。
「私…圭吾さんが…好きです」
意外だったのか覗き込む姿勢のまま片方の眉をピクリと上げた。
「あっ、あのっ…圭吾さんがどんな嗜好なのかも伺いましたしそういうことになるって、ちゃんとわかってますので」
だんだん何から伝えたらいいのか混乱してくる。
「厳しい調教を受ける覚悟もつけました。ただ…」
圭吾さんが探るように私の表情の奥を見つめてくる。もう視線を逸らせなくなる。
「私の身体を見たら、要らないって言うかもしれない…だから、見てダメだったらそう言って下さい…」
瞬間、圭吾さんがムッとしたのがわかって身体が硬直する。
「君は俺とどうなりたいの」
「ごめんなさい」
「佐和」
初めて名前を呼ばれた。呼んでくれた…
「私、圭吾さんのパートナーになりたいです」
遠かった子供の笑い声が、いつの間にか近くで聞こえる。
「車戻ろう」
圭吾さんの大きな手が私の右手首を掴み引いた。
それまで無言だった圭吾さんが車のシートに着くなり
「望み通り、身体を見てから応えるよ」
そう言って携帯とナビを操作した。
「…どこに行くんですか?」
「ここから近いラブホ」
画面から目を上げず言い放った。
「えっ!今から??」
「何を今更。身体を見て決めろと言ったのは君でしょう」
そうだけど、すぐにこんなことになるとは思ってなかった…
「それともここで脱ぐ?」
「ラブホでお願いします!」
声が上ずった私を上目遣いに、圭吾さんはふふんと笑った。