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紅い部屋
第2章 9月上旬・金曜日−広がる世界−
マスタードが効いているレタスハムサンドと粗みじんのゆで卵とコショウたっぷりのタマゴサンド
スパイス強めなのが"ケイさん"の好みの味、特注なのかもしれない。
あっという間に一皿たいらげ、追加で頼んだ烏龍茶を飲んだ。
「ふぅ」
「空きっ腹にお酒はダメだよ。他にもにも軽食あるからお腹すいてるときは一緒に頼んでね」
アゴヒゲの店長シンさんはこの店のオーナーで、ほとんどの日を一人で営業しているのだと言う。
「ご心配お掛けしてすみませんでした。ありがとうございます。あのこれ…ありがとうございました。どれも素敵でした…」
アルバムをシンさんに返した。
「素敵?」
「縄で縛られた女性…とても綺麗でした。叩かれた痕も…あれは暫く残るのでしょうか」
「そうだね、みみず腫れになったりするからね」ニヤリとシンさんが言った。
「それなら…その痕を見て本当の自分を思い返すことが出来ますね」
私は思ったままを口にしてしまったが、シンさんが少しビックリした顔をしている。
「痛そう、怖いと思わないの?」
怖い?
どうだろう、一度もそう感じたことはなかった。
「私は…まだ実際に体験したこともこの目で見たこともないですから…もしかしたら気持ちが変わるかもしれませんが」ふと、アルバムの光景を思い出す。
「写真の女性達を羨ましく思います」
無言を貫いている隣席から、ちらりと視線を感じた。
「そっかぁ。でもさ、失礼だけど…どうして"今"だったの?10代の、もっと若い時に自分の性癖に気付いてたんじゃない?」
烏龍茶をひと口含む。
「…私おかしいかもっていうのはずっと思ってました。でも誰にも相談出来ないし、周りにもそんな話してる人いないし…」
横目で隣を覗き見ると、携帯を弄る手が止まっている。
「このまま私20代を終わるのかなぁ、って…同級生は結婚してお母さんになってるコもいるのに、私だけモヤモヤしたまんまだなって。ちゃんと自分が何なのか知ろうって思って」
うんうん、とシンさんが無精髭の生えた頬に手を当て頷き、何か言いかけたタイミングで“こんばんは〜”と女性が2人入店してきた。
ごめんね、と手でジェスチャーしシンさんはカウンターを出てしまった。