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父子の夜
第14章 今宵の月のように
鉄平は笑いながらカウンターに腰を下ろし、雄平を隣に座らせた。
「とりあえず、盛り合わせと…鶏モモ2つ…とメシ2つで」
「あいよ!」
小さな店内いっぱいに入った客の中で、雄平と鉄平だけが酒を飲んでいない。場違いとも思えるが、鉄平は気にもせず焼き鳥を頬張り、店主と楽しそうに会話していた。
時間が経つにつれ、雄平も雰囲気に慣れ、大好きな鶏肉を口いっぱいに頬張った。
久しぶりのガッツリした食事だった。
「雄平っ、美味いだろ?」
「うんっ…おいしいっ…!」
鉄平の耳元に口を寄せ、囁くように答える雄平。そんな雄平を見て店主は言う。
「鉄ちゃんの奥さんって…綺麗な人なんだろうねー。雄平君、めっちゃ可愛いもん!」
鉄平は照れ笑いを浮かべ、雄平を見る。
店に入る前に雄平に言い付けた事があった。
『母ちゃんが死んだ事は黙ってろよ?』
店主は元子の事は何も知らない。会った事もない。だからわざわざ言う必要はない、と。
雄平は何も言わずに、ただ頷いた。