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父子の夜
第14章 今宵の月のように
妻の事を誰1人知らない中に身を置くのは、今の鉄平にとっては心地よく、店主や隣に座った酔っぱらい親父たちとの会話も弾んだ。
「兄ちゃん、一杯どうよ?奢るで~!」
「いや、息子と来てるんで……」
「一杯くらいええやん!な~ボウズ!」
雄平は酔っぱらい親父の野太い声にビクビクしながらも、笑顔で頷く。その様子を見ながら「そう?」と鉄平。コップ一杯の酒をもらう。
もともと強くない上、田辺と飲んでからも随分経つ。
鉄平はすぐに酔っぱらった。
陽気に笑い、饒舌になる。
雄平は、まるで別人のような鉄平の姿に驚き、目を丸くして見つめていた。
暫くすると、「うっうっ」と声をあげながら泣き出した鉄平。見知らぬ酔っぱらい親父の胸を借りて泣く。
「コイツと嫁はよく似てましてね……俺にとっては…太陽みたいな存在で、眩しくて………」
鼻を啜りながら泣く鉄平の背中を、隣からそっと擦る雄平。
「慰めてやってんのか、ボウズ。優しい男だな!イイ男になるぞ!」
酔っぱらい親父は手を伸ばし、細い目をより細めて雄平の頭をワシワシ撫でる。
「そうなんっすよ!優しくて、めちゃめちゃ可愛い、俺の自慢の息子なんっすよ!」