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父子の夜
第6章 思い出の更新
 
「はい、こんばんは」

番台に座るハゲ親父の挨拶に、目も合わさず少し頭を下げて小銭を渡す鉄平。
その後ろから来た雄平はちゃんと「こんばんは」と挨拶した。

母が死んで間もない頃、番台の親父に『奥さんは?』と聞かれ、鉄平は素っ気なく『死んだ』とだけ答えた。
親父もそれ以来何も詮索してはこない。

服を脱ぎ、前も隠さず堂々と公衆浴場へと入っていく鉄平。雄平は慌てて服を脱ぎ、タオルを腰に巻いて鉄平を追う。

まず、それぞれに髪の毛を洗う。

雄平はシャコシャコ頭を洗う隣の鉄平を見る。随分と髪が伸びた。髪の根元が黒い。
鉄平は何も拘らなくなった。髪の色も、服装も…。
年相応に落ち着いたと言えばそうなのだが、何事にも覇気というものを感じないのだ。

そんな無気力な鉄平がいま、一番興味を示す事……。

雄平が鉄平を見つめていたのと前後して、鉄平も雄平を見つめていた。

雄平と淫らな行為に及ぶ事。
それが鉄平の唯一の生き甲斐となっている。


髪を洗い終えると、体を洗う。
自分の手の届く範囲は自分で、届かない所は擦り合う。


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