この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
父子の夜
第6章 思い出の更新
まるでパス交換でもしているかのように延々と続くやり取り。
自分が投げたボールを受け取り、返してくれる。
それは雄平にとっては会話をしているような感覚だった。
「残り全部飲め」
「うんっ」
受け取った紙パックを雄平は両手で持つ。
もう、コーヒー牛乳はほとんど入っていない。片手で十分持てる重さだ。
鉄平を見る。
右手には洗濯物を詰めたビニール袋。雄平に紙パックを渡し空いた左手は携帯を触り始めた。
あの頃のように手は繋がれていない。
「危ねぇから、もっとこっち来い」
前方から来た自転車が雄平のすぐ側を通り過ぎ、鉄平は去っていく自転車を睨み付けながら雄平の肩を抱き寄せた。
その手は離れる事なく、アパートまで雄平の肩をしっかりと抱いてくれていた。
雄平は触れられるのが嬉しくて、嬉しくて…、
鉄平の体に頭をそっと擦りつけた。
雄平は思う。
この幸せな時間が、ずっと続きますように、と。