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父子の夜
第9章 求め合う二人
 
「おう、お疲れ!」

田辺がニカッと笑ったので、鉄平は頭をペコリと下げ個室を後にした。

今、俺から生き甲斐を奪ったら許さない。
雄平との事は……、
今の俺の全てだ。

田辺に凄んだ険しい顔つきを崩さないまま、鉄平は更衣室へと向かった。



仕事場から家まで徒歩20分。
途中でスーパーに寄り、晩メシの食材を買って、今アパートに辿り着いた。
鉄製の錆びた階段を、踏み締めるように上る。耳障りな金属音を高々と響かせる。
帰ってきたぞ、と。

3つ目のドアだけを見て、2つのドアを通り過ぎた。すると、勢いよくドアが開く。

「父ちゃんっ!おかえりなさいっ!」

目を輝かせた雄平が、目には見えない尻尾を激しくパタつかせながら飛び出してきた。

「ただいま」

嬉しいくせに表情を硬くする鉄平。なんだか妻に悪い気がして笑えなくなってしまった。

それでも雄平は鉄平に擦り寄って甘えてくる。
表情は硬くても、中身は前と変わらないとわかったからだ。

「今日はな、鶏の唐揚げに挑戦する」
「やったー!!」

雄平の大好物であり、妻の得意料理だった。


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