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父子の夜
第9章 求め合う二人
 
病床の妻が、
『雄平のために…』と、何度もレシピを伝授しようとしたが、鉄平は聞かなかった。
『母ちゃんが作ってやれよ』
と、一貫して突っぱねた。
だから味付けは自分の味覚が頼りなのだ。

「まずは…」と、一口サイズにカットされた鶏肉が入ったトレーに直接、醤油、チューブ入りのニンニクと生姜を入れてぐちゃぐちゃにかき混ぜた。

「…………」
「なんだよ?雄平。間違ってるなら早く言えよ?まだやり直せるんだからさ」

よく晩メシの用意を手伝っていた雄平に尋ねてみるが、雄平は何も言わず首を横に振るだけ。
鉄平はひとつ息を吐き、「どうにでもなれ」と投げ遣りな言葉を発し、漬け置きするためにまたビニールを被せる。
その合間を縫って飯を炊こうかと思った鉄平だが、あまりの暑さに扇風機の前へと避難した。

「あっつ~…」

エアコンのない部屋の中は非常に蒸し暑い。
鉄平はジーンズとタンクトップを脱いでパンツ一丁になる。本当は全裸になりたい。
実際、去年の夏までは家族の前で全裸になっていた。
でも今は、雄平が怖がるだろうと黒のボクサーブリーフだけは身に付けたままだ。

意識すると急激に性欲が漲ってくる。
鉄平は雄平を目で探す。


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