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S-Horror
第3章 未恋
夜が明けないような黒い雲と、激しい雨。
僕は眠ることなく動き続けた。
雨に濡れないことは二つ目のいいことだった。
なんで?…そこにいるの?…
来た道を戻った僕は、交差点の白い花の前に踞る奈央を見つけた…。
ふわふわと降りていく…。
ビニール傘がバチバチと鳴っている。
「…ごめんね…ごめんね、文哉……失くしちゃった……」
やっぱり、そんなに顔を腫らして…
美人が台無しじゃないか…。
「救急隊の人にも聞いてみたの……でも知らないって……どうしよ……何処にもないのっ…ずっと探してるのにっ……」
ずっと?…ずっと泣いてたの?……
それなのに…まだ……
僕は人差し指の背を奈央の頬に添わした。
涙は頬を伝い落ちていく…。
お願い…もう泣かないで……
両手で頬に触れていく。
感触はない…。
頬に手が消えないように、撫でるように動かしていた…。
大丈夫だよ…僕はそれを伝えるために君を探してたんだ…
後ろ…後ろの木の陰にあるから、振り向いてみて…
お願いだから…探し物はそこにあるから……
なんで、なんで伝わらない。
涙を拭ってやることもできない。
抱きしめてあげることも…
唇を重ねることも…
神様…もう一度、もう一度だけ…
奈央に伝えたい…伝えさせてよ……
雨が止んだ…。
僕の唇が濡れていた…。
ちょっと、しょっぱい……。
「…文…哉?……」
奈央がそう囁いた気がした。
雲が晴れていく。
私は傘を閉じた。
『後ろを見てごらん……』
頬に優しい温もりを感じて…
文哉がそう囁いた気がして……
濡れて少し汚れてしまった小さな白い箱を見つけた…。
「ぁぁ…こんなところに……」
包み込むように胸に抱いた…。
よかった…
ようやく、少しだけ安心したような表情を見られた気がした。
僕はふわりと浮いていく。
陽の光に指先から熔けていく。
光の粒が風に舞い散るように…。
なんとなく、感じていた。
僕にもう夜は来ない…。
神様にねだっておいて…そりゃそうか…
熔け行く瞳に映った最期の記憶…。
「あ・り・が・と……」
そう彼女の唇が………………
~END~