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S-Horror
第1章 月光
「ここだよね……」

「そうだっけ?…」

怜奈の問いかけにぼんやりと答える。

「アキラは観たの?……」

「俺は観てない…怜奈は?…」

「…………」

抱き抱えるようにしがみついていた腕に更にきつく…
サマーニット越しの乳房が肘に押しつけられていた。

「…まぁ、いいや…暗いってだけでなんもないよ…言ったろ、幽霊なんて居ないんだって…そういうの信じる派?…」

押し黙った怜奈に俺は茶化してみせた。
本当に幽霊なんて信じていなかった。
ホラーもどうせ作り物だと思うと褪めて観てしまう。
飛び降りたであろう、四階建ての校舎の窓を見上げていた。

「私も信じないよ…でもやっぱり怖いっていうか…なんだか寒い……」

【あれ?…月が消えてる…風に甘い匂い?…】

「だろ?…幽霊なんて非現実的だって…未練とかで成仏できないとかウケる…だったら人ってもっと神秘的に生まれて来てもいいだろ…」

「神秘的って何…なんだか格好いいこと言ってるけど意味わかんないよ……」

【確かにそうだ…そんなことに想いを馳せたことなんてない…】

「いや、だから…さっきから押しつけられてる感触が堪らないっていうか…我慢できないっていうか…」

「アキラ…最悪……結局そっち……」

【おっ…怜奈もまんざらじゃない?…】

「もうなんも出て来ないし…あっち行こうぜ…」

「えっ?…まだ帰らないの……」

不謹慎なんだろうが、俺は堪らなくなっていた。
第一校舎から第三校舎迄平行に並んでいる。

その並びに体育館があり、入り組んだ先に裏庭があった。

俺はなんとなくそこを目指していた。
月明かりのない暗闇をスマホの灯りを頼りに歩いていく。
ずっと怜奈は俺の腕にしがみついていた。

スマホの灯りが裏庭を照らしていく。
砂利の狭い庭の真ん中に大きな銀杏の木が一本あった。

「ここって……」

「…俺が怜奈にコクった場所…」

俺は怜奈の腕を解くと、背中を木に押しつけた。
何も言わずに唇を重ねていく。
怜奈の手が俺の胸板に添えられると、舌を挿れていった。
鼻から抜けるような、切ない吐息を怜奈が漏らす。
俺達は情熱的に舌を絡め合っていた。

【ん?…怜奈…唇でも切ったのか?…】

なんだか錆びた血の味に思えた。

ゆっくりと唇を…舌を離していく。

「いいだろ?…」

言いながらサマーニットをたくし上げていた。
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