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嘘つきは恋の始まり
第3章 つ
「谷城さん?」

1番見られたくない人に見られてしまった。

「桐生部長」

「なんだ?総務の谷城さんと経管の野口君?珍しい組み合わせだね?デート?」
「はい。デートです」
「いえ。あの。違うんです!」

必要以上に弁解する私を1歩下がったところから野口さんが
冷静な目で見ていたなんて気がつかなかった。

「あんまりエントランスで騒ぐなよ」
「桐生さん。違うんです」

すっと腰に添えられた手にビクッとして
触れ合った肩の持ち主の顔を見上げた。

「桐生部長。先日の丸井物産の件、ありがとうございました。
その丸井の件でその後変化がありましたので
部長もごいっしょに飲みながらいかがですか?」
「・・・・・いや。今日は俺は遠慮するよ。妻が待ってるんだ」

「そうですか。では明日、営業部に伺います。じゃ、行こう?トモコ」

野口さんが私の名前を呼んだとき
桐生さんの肩が一瞬動いた。

「桐生さん・・・・」


当たり前なんだけど・・・・
当たり前なんだけど。

こんな場所では
桐生さんは私のことを二人きりの時のように名前で呼ぶことは出来なくて。
野口さんは噂されるのを気にしなければ
いくらでも「トモコ」って呼べるわけで。

それにしたって。
断る理由に奥さんを使わなくてもいいじゃない。
ひどいよ。桐生さん。
私は知らないうちに涙を1粒流していた。





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