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雨宮さんちのバレンタインとホワイトデー
第10章 3月11日の話
『お時間の間、お印のあるハウス
ご自由に移動して頂いて結構ですので。
お時間許します限り、いちごの方、
美味しくなって待っておりますので。
存分にお楽しみください』
そう言って 説明と案内をしてくれた
若い男性のスタッフが
私達に頭を下げて戻って行った
今日は春めいているし
ハウスの中は上着もいらない程だった
「中、ハウスだけあって温かいね。
上着預けて来て正解だったな」
鈴なりになっているいちごの中から
食べごろになって熟れているのを
見つけると あーんと口を開けて
ののかが頬張ろうとして
ピタッとその手を止めた
「ちょっと、どうして、動画
勝手に撮ってるの?」
「いや、これはその…あれだって。
ののかが、いちごを、食べてる時の顔を
残しとこうかなって思ってさ。
ののか。いちご食べてる時、
幸せそうな顔…してるじゃんだから」
動画に残してその動画を
透真はどうするつもりなのかな?と
思わない事もないけど
「だから?」
「いや、その、撮るぞって言って
撮ったら、その顔しないじゃん?」
じっと困ったような顔をして
ののかが透真を見つめて来て
「いちご食べたら動画、撮られる
って思ったら、いちご食べられないよ~」
「いや。食べて貰わないと
何の為に予約したのか分からないだろう?
ああ。わかった。スマホを
しまえばいいんだろう?これでいいか?」
透真が持っていたスマホを
ズボンのポケットに入れると
両手の平をこちらに向けて来て
何も持ってないと見せて来て
疑う様な顔をしながらののかが
持ったままになっていたいちごを
パクっと口に入れて頬張ると
「んんっ~!甘~い、美味しい~。
透真も、透真も、いちご
早く、食べてみて。美味しいからっ」
俺は別にそこまでいちごが好きでもないし
正直いちご狩りはどうでもいいんだけど
ニコニコしながら
いちごを頬張る度に
幸せそうな顔をしているののかを
見るのは悪くないと思ってる
「旨いか?」
「うん、美味しいよ。
すっごい、甘いし、幸せ~。
透真は?透真は食べてる?」
「え?いちご食べてるよ?」
「嘘、食べてないじゃん、
全然ヘタ、増えてないじゃないのっ」