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雨宮さんちのバレンタインとホワイトデー
第7章 2月14日の話

ここの蟹は…
食べやすい様にカットだけしてあって
後は好きに食べろと言うスタンスだ

無心になってカニを食え…と

出汁があるから

カニスキにしても良いし
カニしゃぶにしてもいい
コンロがあるから焼きガニにしても良い
全部刺身で食べたければ食べても良いと
そう仲居の女性が言っていたが
灰汁があるので生は
沢山は止めた方が良いそうだ

最後に〆の雑炊は
あちらが調理をしてくれるらしく
フロントに電話をして欲しいと
言い残して注文した
ウーロン茶を受け取った

「ののかさ、カニの天ぷら好きじゃん?
ここは、カニの天ぷらないよね?」

ののかはカニのコースがある
旅館は天ぷらがあるかないかで
選ぶくらいにカニの天ぷら好きなのに
何故か選んだ昼食会場は
カニの天ぷらがない旅館で

「ううん、透真…。
もうね、そんな事はね…
この後藤さんの蟹の前にはね
無意味だってすぐに分かるから」

カニは食べる時面倒くさいって
そう思うじゃん?

ここの旅館の蟹さ…あれ…
何て言うんだっけ?カニフォーク?
あの蟹が書いてある奴…
あれ要らないんだよ…マジで

半分だけ剥いてある足の
根元の部分に入っている
切れ込みに沿ってパキッと折って
根元を持って引っ張ると
カニの身が綺麗に殻から外れて

むき身に一瞬でなったその足を
ののかが醤油に付けると
透真の方へズイっと差し出して来る

そのむき身の足を自分の口で迎えに行くと

自分の口の中でふんわりと
カニの旨みと甘さがいっぱいに広がる

「んんんっ~!!?
って、何だよコレ?カニか?
俺が今まで食ってたカニと同じカニ?」

「食べログとかのグルメサイトの
口コミとかも結構高評価
だったから、カニは間違いないって
うちのお母さんも言ってたし。
でも、ホラ…ちょっとね、
建物とか年季入ってる感じだから
泊まったりとかはなぁって」

「それに相当、壁が薄くない?
隣に話し声がさ、筒抜けそうじゃん。
ののかの喘ぎ声…響きまくるもんな」

そう透真が嬉しそうに笑って居て
確かに会話が聞こえそうな位だから
ここには自分はお泊りは出来ないと言う
自信はののかにもあったのではあるが

後はひたすらに無言で
カニを食らうだけの作業になっていて

胃がカニに占拠されて居て
食道までカニが上がって来る
そんなボリュームだったのだが


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