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君と偽りのドライブに
第23章 2‐12:トーストの香り
パンが焼ける香ばしい匂いで目を覚ました。
頬を滑るくすぐったい感触は哲弥の指で、私が起きたのに気づいて彼は慌てたように手を引っ込めた。
「おはよう」
私が言うと、
「……おはよう」
静かな声が返ってきた。
彼は眠ったときのスウェットのままで、ベッドの端に腰掛けていた。
「いつから起きてたの?」
「さっき起きたばっかだよ。……体、大丈夫?」
「元気。ありがとう」
そこで気遣いを挟むのが哲弥らしくて嬉しくなった。
「パン焼いてるの?」
「食う?」
「食べる」
なんて気持ちのいい目覚めなんだろうと思いながら、私はベッドの中から体を起こす。
テーブルの上が視界に入る。目玉焼きが乗った白いプレートが二枚と、不揃いなマグカップが二つ。
「すごいちゃんとしてんじゃん」
「今日だけね」
哲弥が照れたように頭を搔く。
「いつもこうとは思わないで」