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君と偽りのドライブに
第23章 2‐12:トーストの香り



「まあ、部屋はゆっくり探せばいいか。長く住むことになるかもしれない家だし」

 家族が増えるかもしれないし、とそこまで考えてしまう私はやっぱり気が早いだろうか。

「けど私としては、もうちょっと服置けば、哲弥の部屋にいつでも泊まれる環境整っちゃったからなあ」

 後部座席に置かれたレジ袋を見て、言う。



「……いつでも来てくださいな」

 哲弥は静かに微笑んで、そしてちょっと躊躇って、ポケットに手を突っ込んだ。

 取り出したのは、鍵だった。



「もし……よかったら」

「哲弥の部屋の?」

「重かったら、受け取らなくてもいいんだけど」



 いつポケットに入れたのかは知らないが――渡すタイミングを彼がずっと探っていたのだと思うと、彼が愛しくて、身を乗り出してキスをした。



 驚いて動けない哲弥に、

「家着いたら連絡してね」

 私はそう言い置いて、車を出た。



 この幸せが溶けないうちに別れないと、いつまで経っても帰れないと思った。


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