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君と偽りのドライブに
第23章 2‐12:トーストの香り
私のアパートの前に、彼が一時停車する。
長く路駐できる場所でもないのに、つい寂しさが頭をもたげて車を降りるのが惜しくなった。
じゃあまたね、と言いつつドアを開けることができない私の頭を、彼が撫でた。
「一緒に住む?」
突然の提案に思わず顔を上げると、彼は顔を背けて、
「ごめん、早すぎたか」
と言った。
「……まあ、確かに、付き合って一週間でする話ではないよね」
彼は気まずそうに黙ったままで、彼のそういうところが、本当に好きだ。
「住むなら、どのあたりかな。私も哲弥も仕事に行きやすい場所がいいよね」
彼の普段使う路線を思い浮かべようとすると、
「……あんまり舞い上がらせないでよ」
横から、小さく哲弥の声が聞こえた。
「あれ? 私はいいなって思ってるけど」
「いや、早すぎるって今……」
「哲弥と知り合ってもう二十……何年だ? 二十三年ぐらい?」
首を巡らすと、ハンドルに片手をかけた哲弥が、唇をぎゅっと結んで目を伏せていた。
私に思い切りさえあればキスをしていたところだった。