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君と偽りのドライブに
第4章 1‐3:車でお迎え
彼の今日の服装がスーツじゃないのも、私にとって新鮮だった。
社会人になってから、彼の私服を見たのはほとんどはじめてだった。
細身のジーンズに麻っぽい生成のシャツ、カーディガンは秋らしく落ち着いた紺色。
目立ったお洒落ではないけれど、自然と彼に似合っていて、私はまた彼を見ていたことに気がついて慌てて目を逸らす。
車窓の風景は街路樹の葉も色づき始めていて、これがただのドライブだったらいいのに、と、私は気づかれないようにそっとため息をついた。
車は有料道路に合流して、順調に地元へと向かっていた。
「暇なら何か流す?」
あまりに私が無言なので気を遣ったのか、彼が片手でカーステレオをいじり始めた。
それでも安全運転は滞りない。
「あ、うん、じゃあ」
月一でごはん食べてたときは何の話をしてたっけ。
今まで意識したことなかったからうまく思い出せない。
思えば聞き上手な彼を相手に、私の愚痴ばかり話していた気がする。
……愚痴が多い女なんて嫌だよなぁと、勝手に凹む。
流れ出した音楽系のラジオは、適度に私と彼の間を埋めてくれた。