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君と偽りのドライブに
第7章 1‐6:香澄ちゃん
「愛されてんね、お兄ちゃん」
香澄ちゃんが突然私の背後に声を掛けて、私は跳ねるように後ろを見た。
扉に手を掛けた状態で、哲弥が固まっていた。
「えっ……」
その顔が、赤い。
「ち、違うから!」
私は慌てて手を振った。自分の顔も赤くなっている自覚はあった。
いや、何も違くないのだ。
私は今夜だけは、哲弥の彼女なのだから。
ここで否定するほうが不自然だ。
けれど、哲弥に勘違いされるわけにはいかなくて、だって私は哲弥の幼馴染みで、友人で、誰にもできない頼みごとを唯一言える親友のポジションを、二十年ずっと守ってきたというのに、それを今失うわけには――
割って入ったのは、聞き覚えのあるオルゴール音だった。
「ほらほら有紗ちゃん、お風呂沸いたわよ」
お客様はいちばん風呂どうぞ、というお母さんの声に、私は縋るようにしてリビングを出た。