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淫魔の宿へようこそ
第2章 訪ねてきた料理人
「僕は料理が出来ないんだよ……正しくは、食材というものにさわれないんだね。 それなのに火を通したものでなければ食べられない」
ドルードの変わりように何度も腕で目を拭っていたニコラスは、今度は彼の言葉に首を傾げました。
「だってほら、卵や新鮮な肉や魚なんかはまだ生の気配がするし、野菜やキノコも同じこと。 僕は自然界の生のものに触れるのが出来ないんだよ。 それに、敷地の外に出るのもああなっては難しくってね」
ほらと言われても。 何とも奇妙な彼の話です。
ニコラスはそんな彼に曖昧に相槌を打ちました。
「はあ、ああ? それで食事が出来なくて倒れちゃったってわけなんですか……?」
「うん、このホテルにはしばらく君みたいな料理人がいなかったから」
そういえば、このホテルの中も外も人の気配が全くありません。
まるで廃墟のように静まり返っています。
もしかしたら他に従業員もいないのでしょうか。
この広い建物の中に二人だけ……? そう思うと、ニコラスは何だか心細くなってきました。
「大丈夫、ちゃんと客は来るから安心していいよ」
「………そ、そうなんですか?」
「もう大丈夫なんだよ」
ドルードはクスクス笑いながら繰り返しました。
「さあて、それじゃあまずはこのホテルの中を案内してあげる」
食事を終えた二人は二階へと上がります。
赤い絨毯の上を歩いていくと、長い廊下には左右にいくつもの扉が見えます。
やはり中には誰もいないようです。
「ここ全部が客室なんです?」
「そうだよ、それぞれベッドルームがついてるんだ」
ドルードは一番手前の扉に手をかけると、そっと開きます。
「……わあ……!」
そこは寝室でした。
「これが一等上客用の貴賓室」
「お金持ちの家みたいね…だ、だね」