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淫魔の宿へようこそ
第5章 情動の意味
*
ドルードはそんな彼女を見下ろしながら、困って頭を掻きました。
「えっと……まさかここで気を失われるとは」
彼はとりあえずはち切れそうな自分の欲望に蓋をして、ニコルの体の傍に腰を下ろしました。
ニコルを押し倒すまでの彼は、同族に彼女を晒した結果、あまつさえ同族のインキュバスにかまけてここを離れるか、もしくは危険な目に遭わせるぐらいなら、完全に自分のものにしておこうと思っていたのでした。
インキュバスは基本的に、無用な争いを避けるために同族の匂いが強く染み付いたものには手を出しません。
彼女の望みは亡き両親の跡を継ぎ、料理人として独り立ちすること。
自分の望みは人間界に住みここのホテルを運営していくこと。
この時代の人間の女性にしては有り得ない短い髪。 初対面でドルードは彼女の覚悟の程を理解したのです。
双方の希望を合わせて秤にかけた際、こうすることに躊躇いはありませんでした。
……そんな目論見さえも忘れそうになる程に、今程のニコルは魅力的でした。
ドルードは寝こけている彼女にチラと目をやり、くるんと上を向いた長い睫毛、可愛らしい鼻に僅かに開かれた花びらのような唇に指先を沿わせました。