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淫魔の宿へようこそ
第6章 ニコル
***
それから二週間程が経ち、ニコルは今晩もドルードの部屋の前にいました。
毎日という訳ではないのは昼間の仕事に差し障りがないようにとの彼の配慮かも知れない、とニコルは思っています。
ニコルの気持ちは暗い昂りに覆われ、震える手でドアノブを開けます。
するとドルードは長椅子からすぐに立ち上がりました。
彼はいつも愛おしい恋人に何年振りにでも会えたみたいにまず安堵の息をつき、それから足速に歩を進め、ニコルの頬に手をあて目を細めるのです。
そして軽いキスをして彼女の耳元で囁きました。
「待ってたよ。 僕のセシリア」
最後の方は震えて掠れ、そこからすぐにベッドに行くか、セシリアが居なかった間の他愛ない話をして過ごすか。
それは様々でしたが、彼はニコルの小さなため息やちょっとした逡巡も逃さず、彼女のために心を砕いているようにみえます。
ニコルが〈そう〉と分かる前もドルードは優しい人だと彼女は思っていましたが、彼は心からセシリアを愛していたし、今も愛しているのが分かりました。
だからごくたまに彼が我を忘れて彼女を激しく抱く時も、一緒に眠る時に彼女がほんの少し身動ぎをしただけで、すぐに彼が目を覚まし、きつく抱きしめられる時も。
ニコルはその度に、切なくて泣きたいような気持ちになってしまうのでした。
彼が昼は彼女を「ニコル」と呼び、あくまで事務的な態度を取り続ける、ニコルはそんな理由さえドルードに聞けませんでした。