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淫魔の宿へようこそ
第6章 ニコル
昨晩ニコルが意識を失ってから、行為が終わるまでの自分の記憶は途切れ途切れで曖昧でした。
ただセシリアのことだけは鮮明に覚えています。
ニコルには、悪態をつき続けていた鈴のような声をした、彼女の言葉の裏側が分かりました。
助けて……
ドルードを助けてあげて……
彼女の悲しそうな蒼い瞳がそう告げていました。
それを知ってなお、セシリアを見捨てることはニコルには出来ませんでした。
『わ、私なんかで良ければ』
そう呟いた途端に、ニコルは目覚めたのです。
あれはセシリアのお別れだったのかもしれません。
もう彼女の声は聞こえませんし、見えません。
永い永い時間、セシリアを想って待ち続けていたドルードのことを思うとそれも胸が張り裂けそうでした。
ただ彼女と出会えた理由は、彼と体を重ねた今、何となく理解出来ました。
あの時の彼女の強い、とても強い恋慕の情。
ニコルはきっと自分もドルードを好きだからだと思うのです。
セシリアもまた、棺の傍で泣き続けるドルードを同じ気持ちで見守り続けたのでしょう。
そしてドルードの傍にいたかったのでしょう。
ニコルは二人を思いその場で静かに涙しました。