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淫魔の宿へようこそ
第2章 訪ねてきた料理人


ニコラスはもう四時間も森の中をさ迷っています。

そのたびに不安をかき消すように口にしました。

「き、きっともう少し歩けばあるはずだし!」

彼はここで引き返すわけにはいきませんでした。

そんな必死な願いが通じたのでしょうか。

ゆく先の枝の隙間からチラリと見えたは茶色の屋根と白い壁。

ニコラスが期待に胸を膨らませて歩を進めると、
突如拓けた場所に現れたそれは、街中ではとても見られないような、大層立派な建物でした。


さこは三階建てのようでした。
一階の玄関を支える太く高い柱には美しい装飾が施され、螺旋を描いた彫刻の草花や天使が頭上を昇っています。
その両脇を飾る縦長の窓には、高価なガラスが贅沢に使われてはめ込まれいます。
それらの間を埋める白磁の壁に青々とした蔦の葉が上階へと伸びていました。

旧いながらも品の良さを醸し出している、その中は一体どのような造りなのでしょう。
ニコラスは吸い寄せられるように建物の入り口へと近付き、すると扉の真横には建物に似つかわしくないブリキの板が立てかけられているのに気付きました。

………そこには汚ったないミミズの這ったような文字でこう書いてあります。


〈ホテル ドルード〉


「間違いない、ここが、わ…俺の新しい職場だ」


まさにメモにある名前と同じホテルでした。


ニコラスは戸を叩き、辺りに響く大きな声で元気よく挨拶をしました。

「こんにちは!  ニコラス・オレームです、料理人として職業紹介組合から派遣されてきました!」



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