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千一夜
第9章 第二夜 パヴァーヌ ⑤
 正直に言う。私には明確な殺意があった。死んでしまえ、お前なんかいなくなれ、という怒り、恨み、憎悪の炎が私の中で燃えていた。
 私の体に新たな燃料が放り込まれた。おかげで姉の重さに耐えられる執念が私に生まれた。
 私はまた歩き出した。一段一段しっかりとした足取りで私は階段を下りた。薄暗くてひんやりとしたワイン蔵。私はその床に姉を寝かせた。この女を全裸にしてもいい。でもこの女の豊満な胸とおま×この割れ目を覆う真っ黒な陰毛は見たくない。
 私はこの女をワイン蔵に閉じ込める。ここには誰も来ない(たとえ誰かがここに着てもワイン蔵の扉を開けようとはしない)。ここには食べ物も飲み物もない。飢え死にしてもらっても構わない。その前に低体温で体が動かなるかもしれない。この女は生きてここから出ることはないのだ。
 この女に借りなど一つもない。私を暗い小屋に閉じ込めて冷たく笑っていたこの女には救いがあってはいけない。
 けれども私は何度かこの女を「お姉ちゃん」と呼んだ。そして私とこの女には血のつながりがあるらしい(それを感じたことなんて一度もないが)。私はリビングに戻り、この女が着てきた青のコートを取ってきた。
 初冬の箱根、そして地下にあるワイン蔵。ひょっとしたら寒さは外と同じになるかもしれない。私は青いコートを姉に掛けた。
 私はワイン蔵の扉に鍵を掛けた。これで姉はワイン蔵から出ることができない。一気に疲れが私を襲った。手足だけでなく体のそこらじゅうが痛む。そして私は前日一睡もできなかった。疲労困憊、体の力がどこかに行ってしまったようだ。私はワイン蔵の前でへたりこんでしまった。動きたくない、いや動けない。
 何も考えることができない。ここまで集中して計画を実行してきた。悔い? 悔いなんて私のどこを探してもないはずだ。やり遂げたという気分に浸りたいが、残念ながら思考は停止状態だ。このまましばらく放心したままでいよう。
 リビングからつけっぱなしになっているテレビの音が聞こえる。何を言っているかわからない。今の私には最高のBGM。
 だんだんと自分が取り戻せてきた。私は立ち上がった。ワイン蔵の前。私はドアの向こうに向かって言った。
「バイバイ、お姉ちゃん」
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