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千一夜
第9章 第二夜 パヴァーヌ ⑤

計画実行前日の夜。私は眠れなかった。冷静でいられなかったのはそのときだけ。だから私は落ち着くために、粉々にした母の睡眠薬に手を伸ばしそうになった(もちろん私は我慢した。手を伸ばした時点で計画は失敗に終わる)。
350㎖の缶を二つ。姉はいつもそれをグラスに注いで飲む。私は粉々にした薬を二杯目のグラスに入れた。正直、母の睡眠薬の効き目なんてわからない。でも私は母の薬にすがるしかなかった。
私は二杯目を飲み終えた姉を伺った。姉は美術関係の番組をテレビで見ている。私なら睡眠薬なんていらないくらい眠気を誘う退屈な番組だ。その番組から姉は目を離さない。
私は姉の様子を伺いながら「眠くなれ眠くなれ」と催眠術師の台詞を心の中で念じた。
私が念じたからではないが、テレビを見ていた姉の瞼がゆっくり閉じられた。私は心の中で「やった!」と叫んだ。そして母の睡眠薬に感謝した。
焦ってはいけない。焦れば失敗する。事は慎重に進めなければいけないのだ。私はそれから十分ほど姉の様子を見た。十分経って私は姉のそばまで行き、姉の肩を軽く叩いてみた。反応がない。
47㎏の姉を抱えて地下のワイン蔵まで行く。私は大きく一つ深呼吸をした。姉の背中と両腿の裏に手を回す。絶対に持ち上げて見せる。ここで失敗したら計画は先に進まない。私は自分自身に強くそう言い聞かせた。
一、二、三。心の中で掛け声をあげる。腕に、いや私は体全体に力を入れて姉を抱え上げた。47㎏はダミー人形をの比ではなかった。姉の重みが私の腕、そして背中、腰に伝わった。私は何とか姉を抱え上げた。そしてワイン蔵に向かって一歩一歩亀のように歩いた。苦しかった。何度も姉を落としそうになった。
後はワイン蔵に降りるだけ、でも限界だった。手にもそして体にもそんな力は残っていなかった。姉をワイン蔵に放り投げてもいい、だがそれは計画にはないことだ。心が揺れた。姉を放り投げろという声が聞こえる。私はその声に従おうとした。そのとき……。
そのとき姉がつけているコロンの匂いが、私の鼻孔を通った。腹が立った。この匂いでこの女は健太を、私の主人を誘惑している。断じて許すことなどできない。この女には罰が必要だ。私を小屋に閉じ込め、私の主人をたぶらかすこの女を私は罰する。
350㎖の缶を二つ。姉はいつもそれをグラスに注いで飲む。私は粉々にした薬を二杯目のグラスに入れた。正直、母の睡眠薬の効き目なんてわからない。でも私は母の薬にすがるしかなかった。
私は二杯目を飲み終えた姉を伺った。姉は美術関係の番組をテレビで見ている。私なら睡眠薬なんていらないくらい眠気を誘う退屈な番組だ。その番組から姉は目を離さない。
私は姉の様子を伺いながら「眠くなれ眠くなれ」と催眠術師の台詞を心の中で念じた。
私が念じたからではないが、テレビを見ていた姉の瞼がゆっくり閉じられた。私は心の中で「やった!」と叫んだ。そして母の睡眠薬に感謝した。
焦ってはいけない。焦れば失敗する。事は慎重に進めなければいけないのだ。私はそれから十分ほど姉の様子を見た。十分経って私は姉のそばまで行き、姉の肩を軽く叩いてみた。反応がない。
47㎏の姉を抱えて地下のワイン蔵まで行く。私は大きく一つ深呼吸をした。姉の背中と両腿の裏に手を回す。絶対に持ち上げて見せる。ここで失敗したら計画は先に進まない。私は自分自身に強くそう言い聞かせた。
一、二、三。心の中で掛け声をあげる。腕に、いや私は体全体に力を入れて姉を抱え上げた。47㎏はダミー人形をの比ではなかった。姉の重みが私の腕、そして背中、腰に伝わった。私は何とか姉を抱え上げた。そしてワイン蔵に向かって一歩一歩亀のように歩いた。苦しかった。何度も姉を落としそうになった。
後はワイン蔵に降りるだけ、でも限界だった。手にもそして体にもそんな力は残っていなかった。姉をワイン蔵に放り投げてもいい、だがそれは計画にはないことだ。心が揺れた。姉を放り投げろという声が聞こえる。私はその声に従おうとした。そのとき……。
そのとき姉がつけているコロンの匂いが、私の鼻孔を通った。腹が立った。この匂いでこの女は健太を、私の主人を誘惑している。断じて許すことなどできない。この女には罰が必要だ。私を小屋に閉じ込め、私の主人をたぶらかすこの女を私は罰する。

