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千一夜
第11章 第三夜 春の雪 ①
 すでに自分はリンク・ワンダリングの状態であることは認識している。こうなる少し前、草加は無謀にもホワイトアウトの中を歩き続けた(これがよくなかった)。
 何度か登った山だ。真っ白な画用紙の中をこの山の面影を思い出しながら草加は登ってきたのだ(あるいは下ったのかもしれない)。真っすぐ歩いているつもりだが、ぐるぐると円(でこぼこした円だと思うが)を描くように歩いたのだろう。
 そしてとうとう白い雪が草加の歩を止めた。草加は自然の力に屈した。見事に草加は負けた。負けても草加は自然を恨むことはしない。人は自然には勝てない。自然というばか野郎に挑むことはできても、勝利を手にすることはできない。
 それでも草加は父の声を頼りにまだ戦いを続けるつもりでいる。
 頼りはフードに落ちる雪のカサカサとした音。これが止んだ時が最後のチャンスだ。もちろん音が止むことなどないかもしれない。だが、今はそれに賭けるしかない。
 止んでくれ、頼むから俺の願いを聞いてくれ、一分、いや十秒でも構わない、お前の姿を俺に見せてくれ、今俺がどこにいるのかを教えてくれ、頼む。草加は体を丸めたままそう必死に願った。
 五分経った。音は止まない。自分の意識はどれくらいもつだろうか。一時間か、それとも二時間か。三時間は無理か。草加はそんなことを考えていた。
 あれから父の声は聞こえない。当たり前だ。父はこの山にはいない。そう言えば、この前父に会ったときにこんなことを言われた「三十を前にした男が嫁をもらえないなんて情けない奴だ」と。
 草加の家が自分の代で終わるのかと思うと、草加は父と母に謝りたかった。「父さん、母さん、不肖の息子で御免」
 人生の最後は誰かに詫びることだらけなのか。草加は厳寒に震えながら(無意識に)フードの中で苦笑した。
 草加の中に後悔が一つだけあった。それは最愛の人に出会えなかったことだ。誰かと付き合っても長続きしなかった。最後に付き合った女(同じ中学の英語教師)は、同僚の国語教師と結ばれた。縁がないというよりは、自分に男としての魅力がなかったのだろう。草加はまたフードの中で笑った。
 最愛の女はいなかったが、大好きな山で死ねる。ならばそれでいいじゃないか。山登り達には申し訳ないが。
 やはり人生の終わりは詫びだらけなのだ。草加は声を出して笑った。
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