この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
千一夜
第12章 第三夜 春の雪 ②
 草加は自分のためにミルク抜きのホットチョコレートを作り始めた。シェラカップは沖野が使ったものを使う。もちろんそのあとに作るラーメンのクッカーも沖野が使ったものだ。
 登山者はザックを軽くするために極限まで物を省く。食料や水はもちろん一人分。余計なものは自分の体力を削ぐものとなってしまう。シェラカップもクッカーも当然一人分。
 ホットチョコレートを飲み、インスタントラーメンを食べると草加はようやく本来の自分を取り戻した。低体温症もその症状はなくなっていた。胸がドキドキするのは沖野が可愛いからだろう。草加は勝手にそう判断した。
「ひょっとして草加さんは塩と豚骨が嫌いですか?」
「えっ?」
 沖野にそう問いかけられて、草加は驚いた。
「塩と豚骨は持ってこられなかったようなので」
「ばれました? 実はそうなんです。豚骨は好きなんですが塩は苦手です」
 ラーメンは草加の大好物だ。でもどういうわけか草加は塩ラーメンだけは苦手なのだ。
 大学の卒業旅行で草加は友人七人と北海道を旅した。函館でラーメン店に入って塩ラーメンを頼まなかったのは草加一人だった。そして友人からこう言われた「函館で味噌ラーメン食べているのはお前くらいだ」と。
「草加さんは何をなさっているのですか?」
「仕事ですか?」
「はい」
「中学で理科の教師をしています」
「学校の先生?」
「はい、二年三組の担任です」
「きっと生徒さんから人気のある先生なんでしょうね」
「人気なんかありません。俺は生徒から同情される教師ですね」
「同情? それはどういうことですか?」
「同じ学校に勤めている教師と付き合っていたんですが、振られました。そしてその先生は同じ学校の同僚と結婚しました」
「そうだったんですか?」
 沖野の表情が一瞬曇った。
「慣れてるんで」
「慣れている?」
「振られることです」
「ふふふ、ごめんなさい」
「あの、沖野さんのお仕事は」
 女性に職業くらい訊ねても責められることはないだろう、草加はそう思った。
「何もしてません。お見合いだったら家事手伝いとして紹介されるでしょうね」
「家事手伝い……」
「そう、家事手伝い」
「お見合い……」
「そこ、気になりますか?」
「あっ、いえ」
 草加は気になった。お見合いという沖野の言葉に何故かひっかかる。もちろんそのことは沖野には言えない。
/354ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ