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千一夜
第12章 第三夜 春の雪 ②

草加は沖野が承諾してくれてほっとした。一緒に下山なんて沖野に強要できることではない。しかし初心者に雪で覆われた山は危険だ。危険だとわかっていながら、黙っていることはできない。沖野を守らなければ山登り失格だ。そしてもう一つ。沖野と一緒に下山できれば、沖野との時間が長くなる。
それから草加は沖野といろいろな話をした。学校の話、趣味の話、音楽の話もした。草加が特に時間をかけて話したのは、気象予報士の試験に合格したことだった。合格率が5%前後の試験に合格したことを草加は少しばかり自慢を交えて話した。話し終わった後で、鼻を高くしながら話していた自分が恥ずかしくなったのだが、それでも草加は沖野と話して楽しかった。
そして草加にはふと気付くことがあった。話しているのは自分だけで、沖野はずっと自分の話を聞いているだけだったのだ。
沖野が草加に問いかける。それに対して草加が答える。今度は草加が沖野に問いかけようとしても、どういうわけかまた草加が沖野に問いかけられているのだ。
不思議だったが、草加は沖野から何か質問されることが嫌ではなかった。むしろ自分のすべてを沖野に知ってもらうことが嬉しかった。
どれくらい時間がたったのであろうか、避難小屋には時計はない。草加が手首に巻いているデジタル時計に目をやることはなかった。時間なんて無くなってしまえばいいとさえ草加は思った。それくらい草加は沖野との時間が大切に感じられた。
だから草加はもっともっと沖野と話をしたかった。でもそういう自分に沖野を付き合わせることはできない。低体温症から回復していても自分も疲れている。登山初心者の沖野はもっと疲れているに違いない。明日は沖野を連れて下山する。自分一人の下山ではない。沖野を無事に山から下ろさなければ、山登りとは言えない。草加はそう思った。
「沖野さん、お疲れでしょ」
「少し」
「休みましょう。ゆっくり休んで体力を回復させないと明日の下山に差し支えます」
「そうですね」
「俺の寝袋使ってください。使い込んでて俺の匂いが沁み込んでいますが、それさえ我慢してもらえれば温かく休むことができます」
「私なんかが使っていいんですか?」
「構いません。幸い薪ストーブがあるんで俺はここで休みます」
「ありがとうございます」
それから草加は沖野といろいろな話をした。学校の話、趣味の話、音楽の話もした。草加が特に時間をかけて話したのは、気象予報士の試験に合格したことだった。合格率が5%前後の試験に合格したことを草加は少しばかり自慢を交えて話した。話し終わった後で、鼻を高くしながら話していた自分が恥ずかしくなったのだが、それでも草加は沖野と話して楽しかった。
そして草加にはふと気付くことがあった。話しているのは自分だけで、沖野はずっと自分の話を聞いているだけだったのだ。
沖野が草加に問いかける。それに対して草加が答える。今度は草加が沖野に問いかけようとしても、どういうわけかまた草加が沖野に問いかけられているのだ。
不思議だったが、草加は沖野から何か質問されることが嫌ではなかった。むしろ自分のすべてを沖野に知ってもらうことが嬉しかった。
どれくらい時間がたったのであろうか、避難小屋には時計はない。草加が手首に巻いているデジタル時計に目をやることはなかった。時間なんて無くなってしまえばいいとさえ草加は思った。それくらい草加は沖野との時間が大切に感じられた。
だから草加はもっともっと沖野と話をしたかった。でもそういう自分に沖野を付き合わせることはできない。低体温症から回復していても自分も疲れている。登山初心者の沖野はもっと疲れているに違いない。明日は沖野を連れて下山する。自分一人の下山ではない。沖野を無事に山から下ろさなければ、山登りとは言えない。草加はそう思った。
「沖野さん、お疲れでしょ」
「少し」
「休みましょう。ゆっくり休んで体力を回復させないと明日の下山に差し支えます」
「そうですね」
「俺の寝袋使ってください。使い込んでて俺の匂いが沁み込んでいますが、それさえ我慢してもらえれば温かく休むことができます」
「私なんかが使っていいんですか?」
「構いません。幸い薪ストーブがあるんで俺はここで休みます」
「ありがとうございます」

