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千一夜
第12章 第三夜 春の雪 ②
 草加はザックから寝袋を取り出して、それをエアマットの上に敷いた。沖野は草加のその様子をずっと見ていた。
「どうぞ」
「本当にいいんですか?」
「構いませんよ。ゆっくり休んでください」
「ありがとうざいます」
 沖野はそう言うとアウターシェルジャケットを脱いだ。草加はジャケットを脱いだ沖野を見た。見なければよかったと思った。どうしてこんな幼顔をしている女が、どうして巨乳なんだ。やばい、沖野の巨乳の残像が……絶対に眠れない。草加はそう思った。
 沖野の黒い登山シャツの胸の部分が、もの凄く盛り上がっていたのだ。上にも横にも乳房がはみ出しそうなくらいに膨らんでいる。見てはいけないものを見た。沖野の胸の盛り上がりが草加を動揺させた。
「おやすみなさい」
 草加は心の乱れを隠すためにそう言った。
「おやすみなさい」
 沖野が草加にそう返した。
 草加は薪ストーブに手をかざし、後ろで寝袋に包まれている沖野のことを必死に忘れようとした。忘れないとまずい。忘れるんだ、沖野の胸のことは忘れるんだ。草加は頭の中でそう繰り返した。でも……忘れられない。自分は何かに試されているんだろうか? 草加はそう思った。
「ふふふ」
 沖野の笑い声が聞こえた。
「どうかしましたか?」
 振り向くまいと思ったが、体は草加の意志を無視した。草加の目は沖野の胸に向かっていた。すでに沖野は寝袋に潜り込んでいて、草加は沖野の胸を見ることはできなかった。
「草加さんの匂いがします、この寝袋」
「すみません、臭いですよね。少し我慢してください。すみません」
「ふふふ、構いませんよ」
「すみません」
 草加は謝りながら別のことを考えていた。どうすれば自制できるのかと。このままでは自分は獣になる……多分。
 学校教師、避難小屋で女性をレイプ、なんて見出しだけは絶対に避けなければいけない。自分の不名誉は両親や二年三組の子供たちにも及ぶ。
 草加はザックからウイスキーのポケット瓶を取り出した。ウイスキーをホットチョコレートを飲んだシェラカップに注ぐ。それを水で割る。少し濃いめ。それからプリムスで温めてホットウイスキーにする。
 それを飲み干せば朝までぐっすり休むことができるはずだ。沖野の巨乳に今は興奮しているが、自分の体も相当疲れているに違いない。
 草加がカップに口をつけようとしたときだった。声がした。
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