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千一夜
第15章 第三夜 春の雪 ⑤

草加の妻の旧姓は沖野であった。名前は確かにマリアなのだが、真利亜と漢字で書く。そして登山は初心者なんかではなかった。ただ○○岳には登ったことがない。大学ではハイキング同好会に所属していて、富士山をはじめ百名山のいくつかの登頂に成功している(その数は草加よりも多い)。
草加と沖野の出会いは、草加が父と初めて登った山だった。草加の前を歩いていた沖野の尻に向かって「でかいけつだな」と草加が言ったのだ。その言葉はしっかりと沖野の耳に届いた。
沖野はそれを許さなかった。頂上まで草加に自分のリュックを持たせて、頂上では草加が食べる予定だったカップラーメンを食べた。そして草加が飲む予定だったコーヒーまでも沖野が飲んだ。
草加は頂上で沖野に連絡先を訊いた。沖野は草加にこう言った「土下座をしたら教えてやる」と。草加は父との思い出の山の頂上で、正座をして頭を土に着けた。
結婚は二人が二十四のとき、そのときすでに真利亜のお腹の中には草加の子供がいた。草加と真利亜は現在二十九。草加は○○中学二年三組の担任で理科を教えている。そして野球部の監督でもある。ちなみに真利亜は小学四年から六年まで近所の空手道場に通っていた。
「最後に一つだけ教えてくれ」
草加は真利亜にそう言った。
「何?」
「真利亜は俺を殴ったことあるか?」
「……」
草加の妻真利亜はしばらく考える。
「どうなんだ、俺を殴ったことがあるのか?」
「……うん~ん、最初に会ったときかな」
「俺がでかいけつって言ったとき?」
「そう……。そうだ!最初にあったとき、私の右ストレートがあなたにヒットしたわ」
やはり自分は妻に殴られていた。殴られる理由はいずれも自分にある。山小屋ではマリア? に飛び付いた。殴られて当たり前。そして真利亜に向かってけつがでかいと言ったそうだ(草加にはそう言った記憶はない)。女性を侮辱するような言葉を発した自分が殴られて当たり前だ。
でも、どうしても自分の記憶の中には真利亜が語ってくれたことが一つもないのだ。自分の中の真利亜は、山小屋で出会った真利亜だ。草加は不思議でたまらなかった。しかしそれを解決する方法はない。何も考えず、このまま可愛くて爆乳の妻と良太と過ごしていったほうがいい。それが一番賢明な生き方だ。草加はそう考えた。
山小屋の出来事はやはり夢だったのだ。草加はそう思うことに決めた。
草加と沖野の出会いは、草加が父と初めて登った山だった。草加の前を歩いていた沖野の尻に向かって「でかいけつだな」と草加が言ったのだ。その言葉はしっかりと沖野の耳に届いた。
沖野はそれを許さなかった。頂上まで草加に自分のリュックを持たせて、頂上では草加が食べる予定だったカップラーメンを食べた。そして草加が飲む予定だったコーヒーまでも沖野が飲んだ。
草加は頂上で沖野に連絡先を訊いた。沖野は草加にこう言った「土下座をしたら教えてやる」と。草加は父との思い出の山の頂上で、正座をして頭を土に着けた。
結婚は二人が二十四のとき、そのときすでに真利亜のお腹の中には草加の子供がいた。草加と真利亜は現在二十九。草加は○○中学二年三組の担任で理科を教えている。そして野球部の監督でもある。ちなみに真利亜は小学四年から六年まで近所の空手道場に通っていた。
「最後に一つだけ教えてくれ」
草加は真利亜にそう言った。
「何?」
「真利亜は俺を殴ったことあるか?」
「……」
草加の妻真利亜はしばらく考える。
「どうなんだ、俺を殴ったことがあるのか?」
「……うん~ん、最初に会ったときかな」
「俺がでかいけつって言ったとき?」
「そう……。そうだ!最初にあったとき、私の右ストレートがあなたにヒットしたわ」
やはり自分は妻に殴られていた。殴られる理由はいずれも自分にある。山小屋ではマリア? に飛び付いた。殴られて当たり前。そして真利亜に向かってけつがでかいと言ったそうだ(草加にはそう言った記憶はない)。女性を侮辱するような言葉を発した自分が殴られて当たり前だ。
でも、どうしても自分の記憶の中には真利亜が語ってくれたことが一つもないのだ。自分の中の真利亜は、山小屋で出会った真利亜だ。草加は不思議でたまらなかった。しかしそれを解決する方法はない。何も考えず、このまま可愛くて爆乳の妻と良太と過ごしていったほうがいい。それが一番賢明な生き方だ。草加はそう考えた。
山小屋の出来事はやはり夢だったのだ。草加はそう思うことに決めた。

