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千一夜
第16章 第三夜 春の雪 ⑥
「妖精? 冗談じゃない。このクソ馬鹿野郎はお前のおっぱいだけが好きなんだよ」
「それは違うわ。エロ隼太は私のおっぱいが大好きよ。でもそれだけじゃないわ。エロ隼太はお金もないし、おそらく学校でも出世なんて絶対にしないと思うけど、私と良太には優しいのよ」
「それだけの男だ」
「私にはそれだけで十分よ」
「私たちの星に帰れば、お前にふさわしい男が必ずいる。こんな地球人との結婚なんて絶対に認められない」
「認めてもらわなくて結構よ」
 ちょっとだけ静寂。
「あれがいけなかったんだ。お前が小学校のときの遠足の行き先が地球だった。そして日本に行ったとお前は言った。そこで妖精に会ったと。その妖精がこのクソ馬鹿野郎だとは……」
「パパ、お願いだからもう隼太の記憶はいじらないでね」
「ふん、このクソ馬鹿野郎、消したはずの山での記憶がまだ残っている。不思議でならんよ」
「パパもママも地球で暮らせばいいじゃない」
「御免だね。パパもママも向こうではいろいろ忙しいんだ」
「地球と私たちの星はとても近いじゃない。ほんの数分で地球には来れるでしょ? 良太の運動会には必ず来てね」
「もちろんだ。良太が一番になるように」
「それはダメ。地球でインチキするのは政治家だけと決まっているんだから。良太には正々堂々と戦ってほしいの」
「正々堂々と戦ってこの様か」
 真利亜の父はそう言うと、小馬鹿にした目を草加に向けた。
「でも隼太はずっと正々堂々と戦ってきたのよ」
「裏金作りだけは熱心な無能政治家たちが威張っていて、正々堂々と戦っている奴が、土曜日曜も部活で野球の試合の監督をしているなんて、日本という国はおかしな国だな」
「お金だけが大好きな政治家が幸せだとは限らないわ。政治家なんて不幸せな人間の集まりよ。地区大会に優勝して、生徒たちの前で大泣きする隼太ってものすごく格好いいと思う。それを見ている私は幸せよ。パパ、負け惜しみなんかじゃないから」
「ふん」
「パパ、もう一度言うわ。私は隼太を愛しています。そして今幸せです」
「今度このクソ馬鹿野郎が、お前のおっぱいをしゃぶったらぶん殴ってやる」
「パパ、それ反則だから」
「それじゃあ良太の運動会でな」
「うん。それじゃあ」
「ああ」
 またまた少しの静寂。
「真利亜様、おっぱい頂戴」
 草加隼太が寝言でそう言った。
「ふふふ、エロ隼太」

 第三夜 了
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