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千一夜
第17章 第四夜 線状降水帯 ①
 ブラウンカラーに染めたミディアムヘアーの髪から雨が滴り落ちる。女は何も持っていない。伊藤はズボンのポケットからハンカチを出して「これ使ってください」と言った。男のハンカチなんて女が使うはずがないと伊藤は思っていたが、女は「ありがとうございます」と言って、伊藤のハンカチを受け取った。
 伊藤は店内でタオルを買い、それも女に渡した。もちろん店長の星野は、女が今店内でそれを使うことを許した。
 伊藤は不思議に思った。この雨の中を何も持たずに歩いてコンビニに来る女がいることを。何も持っていないということは、伊藤と同じくコンビニにこの雨を避けるために駆け込んできたのかもしれない。おそらくその可能性は高い。
 伊藤もコンビニの星野もずっと体を拭いている女を見ていた。女は体を拭き終えるとハンカチとタオルを伊藤に返した。伊藤はハンカチだけを受け取り「どうそぞれはお使いください」と言ってタオルは受け取らなかった。女はまた「ありがとうございます」と言ってそのタオルで腕や手を拭いた。
「あの、失礼ですが」
「車が故障したんです」
 伊藤の問いかけに女は即座に答えた。
「それは大変でしたね」
「スマホが使えなくて」
「僕もそうなんです。こちらのお店では先ほど停電があったそうです」
 女の話によると、女はメルセデスのR107に乗って買い物に出かけたのだそうだ。ところが運の悪いことに、買い物先のスーパーの駐車場で車を降りようとしたとき、車の中にあると思っていたバックが車の中にはなかった。バックの中には財布が入っている。それを取りに家に戻るところこの雨に会ってしまった。おまけに二十年以上故障しなかったベンツが突然止まったというのだ。
 この雨の中、伊藤は自分よりも運の悪い人間がいることに同情した。
「雨弱くなりましたね」
 星野が外を見てそう言った。
 伊藤と女も外を見た。確かに雨は降っているが、先ほどまでの勢いはない。
 コンビニは避難所ではない。星野だってコーヒーくらいでコンビニに長居されては困るのだろう。伊藤は覚悟した。雨が弱まった今のうちに出かけることを。ただ、女はどうする?
「あの、僕の車でよければ送りましょうか?」
 伊藤は女にそう言った。多分女は断るだろう。今は通じなくてもやがてスマホも使えるはずだ。
 ところが……。
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