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千一夜
第17章 第四夜 線状降水帯 ①
「伊藤さん、どうぞおあがりください。今日こちらに着いたばかりなので部屋の中は散らかってますが、お茶を御馳走させてください」
「いや、ご主人も碧さんもお疲れでしょうからここで失礼させていただきます」
 もちろん碧一人なら伊藤はこんな風には言わない。
「別荘まで送っていただいた伊藤さんをこのまま帰してしまうと私は主人から叱られます。」
「いや……」
 伊藤は迷った。
「遠慮なさらず、どうぞおあがりください」
「それでは一杯だけお茶を頂きます」
 伊藤は碧と一緒に青い別荘に入った。
 不思議な空間だった。壁にはいくつか小さな照明器具が掛けられている。リビングを照らす光はその照明器具が放つ光だけだったので室内は恐ろしいくらいに暗い。壁には照明器具だけで絵画などは掛けられていない。
 部屋の真ん中にソファセットが置かれていた。テーブルを間にして肘掛け椅子が二脚、そして長椅子一脚が向かい合っている。伊藤は長椅子に腰かけた。革張りの椅子だった。
 碧は着いたばかりなので散らかっていると言ってたが、散らかりようがないくらいに部屋には物がなかった。
「主人を呼んできます」
 碧はそう言うと階段を上って二階に向かった。伊藤は碧をずっと追っていたが、暗いせいで二階に続く階段が途中から見えなくなった。
 伊藤は長椅子に背を持たれかけて大きく息を吸った。ひんやりとした湿った空気が伊藤の肺に入り込んできた。伊藤は腰かけたま首を回してもう一度当たりを見回した。何度見まわしても見えるのは壁に掛けられた照明器具だけ、エアコンなども見当たらなかった。つまりこの部屋の中の調度類はソファセットだけなのだ。
 そのときだった。何かが伊藤の耳に聞こえた。それは音楽だった。この音楽はどこから聞こえてくるのだろうか。伊藤はどこから音楽が聞こえてくるか探ろうとした。この部屋にはオーディオセットがない。
 確かに音楽が聞こえるのに、その音楽がどこから流れてくるのかがわからなった。この曲はどこかで聞いたことがある。伊藤は集中して音楽のタイトルを記憶から探し出そうとした。
 わかった。これはエリック・サティのジムノペディだ。ゆったりとした旋律。伊藤は目を瞑り大きくもう一度深呼吸をした。ピアノの音色と湿った空気がまた伊藤の中に入って来た。
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