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千一夜
第17章 第四夜 線状降水帯 ①

碧はお茶の支度のためにキッチンに向かった。とにかくリビングに掛けられている小さな照明が十分な明るさでないためにキッチンの様子が全くわからない。
ただ何となくそこに人がいて、何かをしている(お茶の準備)気配だけはわかる。とにかく不思議な空間だと伊藤はまた思った。
地の底から這いあがっていったような暗い闇が天井を覆っている。伊藤はそれを見てももう何も思うことがなくなった。別荘なんて持ち主の個性が強く表されているものだ。碧の亭主はきっとこういう別荘を望んだのだろう。そう思うことが一番自分を納得させる。伊藤はもう一度目を瞑りそう考えることにした。キッチンからカチャカチャと言う音が聞こえる。音の方を伺うこともやめにした。やがて碧がお茶を持って現れるだろう。
「お待たせしました」
碧はそう言ってお茶の入ったカップを伊藤の前に置いた。
カップの形はティーカップだった。紅茶かな、と伊藤は思った。砂糖もミルクもない。
「頂きます」
伊藤は口をすぼめて、ふーふーとお茶を冷ました。とてもいい香りが伊藤の鼻孔を通った。伊藤はカップに口をつけて一口お茶を飲んだ。香りもよければ味も最高だった。家庭で出せる味をはるかに超えていた。ただ、お茶の種類がわからない。紅茶ではないのか。だがダージリンでもなければウバでもない。美味しさの源を伊藤は探ろうとしたがやめた。毒が入っているわけではない。美味しければ美味しいと飲めばいいのだ。
「いかがですか?」
「香りも味も最高です」
伊藤は、何のお茶ですか? と訊ねることはしなかった。
「ありがとうございます」
「いや本当に美味しいお茶です。こんなに美味しいお茶が飲めるなんて僕はラッキーですよ」
「それではもう一杯いかがですか?」
「いただきます」
お茶を一杯飲んだらこの別荘を出るつもりでいたが、一杯が二杯になっても大したことはない。両親の元には遅れてでも行くことができる。
二杯目のお茶を飲みながら、伊藤は碧と車内では終わらなかった話を続けた。他愛のない話でも伊藤は碧とこうして過ごしていることが楽しかった。サティの音楽も伊藤と碧の会話の中に見事にうまく入り込んでいった。
そのときだった。伊藤が睡魔に襲われた。だんだん体の力が抜けていく。瞼ももう開けていることができない。伊藤な眠りの中にすっとはまり込んだ。
ただ何となくそこに人がいて、何かをしている(お茶の準備)気配だけはわかる。とにかく不思議な空間だと伊藤はまた思った。
地の底から這いあがっていったような暗い闇が天井を覆っている。伊藤はそれを見てももう何も思うことがなくなった。別荘なんて持ち主の個性が強く表されているものだ。碧の亭主はきっとこういう別荘を望んだのだろう。そう思うことが一番自分を納得させる。伊藤はもう一度目を瞑りそう考えることにした。キッチンからカチャカチャと言う音が聞こえる。音の方を伺うこともやめにした。やがて碧がお茶を持って現れるだろう。
「お待たせしました」
碧はそう言ってお茶の入ったカップを伊藤の前に置いた。
カップの形はティーカップだった。紅茶かな、と伊藤は思った。砂糖もミルクもない。
「頂きます」
伊藤は口をすぼめて、ふーふーとお茶を冷ました。とてもいい香りが伊藤の鼻孔を通った。伊藤はカップに口をつけて一口お茶を飲んだ。香りもよければ味も最高だった。家庭で出せる味をはるかに超えていた。ただ、お茶の種類がわからない。紅茶ではないのか。だがダージリンでもなければウバでもない。美味しさの源を伊藤は探ろうとしたがやめた。毒が入っているわけではない。美味しければ美味しいと飲めばいいのだ。
「いかがですか?」
「香りも味も最高です」
伊藤は、何のお茶ですか? と訊ねることはしなかった。
「ありがとうございます」
「いや本当に美味しいお茶です。こんなに美味しいお茶が飲めるなんて僕はラッキーですよ」
「それではもう一杯いかがですか?」
「いただきます」
お茶を一杯飲んだらこの別荘を出るつもりでいたが、一杯が二杯になっても大したことはない。両親の元には遅れてでも行くことができる。
二杯目のお茶を飲みながら、伊藤は碧と車内では終わらなかった話を続けた。他愛のない話でも伊藤は碧とこうして過ごしていることが楽しかった。サティの音楽も伊藤と碧の会話の中に見事にうまく入り込んでいった。
そのときだった。伊藤が睡魔に襲われた。だんだん体の力が抜けていく。瞼ももう開けていることができない。伊藤な眠りの中にすっとはまり込んだ。

