この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
千一夜
第19章 第四夜 線状降水帯 ③
 伊藤の目に映ったのはピンポン玉くらいの大きさの蛙だった。それも見たことがない青い蛙。伊藤は人生で初めて青い蛙を見た。伊藤はその青い蛙を手で払った。もちろん左の肩に乗っている蛙も。
 伊藤は青い蛙に噛まれていたのだ。震えることはなかったが、伊藤はゾクッとした。蛙が人間である自分を攻撃している。確かに蛙は日本だけで生息しているわけではない。だから日本以外のどこかでそういう人間を襲うような蛙がいるかもしれない。しかし日本ではそんなことを聞いたことがない。
 間違いなく自分は蛙に噛まれた。伊藤は恐る恐る足元を見た。最初の痛みは足の指だった。つまり蛙は足元にもいるということだ。
 伊藤の目もだんだん暗闇に慣れてきた。足元に焦点を合わせていく。「あっ!」伊藤はそう叫んだ。足元にも青い蛙がいた。それも一匹に二匹ではない。どれくらい蛙がいるのか数えることはできない。なぜなら床一面に青い蛙が溢れていて、まるで青い絨毯がフローリングに敷かれているようだった。
 蛙は床だけにいたのではない。伊藤が座っているソファにも蛙たちは上ってきていた。全裸の伊藤の体にも蛙はいた。腿や腕の上、腹にも青い蛙が這っている。
 蛙は間違いなく伊藤の足の指と肩を噛んだ。その考えに至ったとき、伊藤はまた強烈な痛みを感じた。体中に痛みを感じる。まさか自分はこの蛙の獲物になっているのではないだろうか。一匹二匹ならこの凶暴な蛙に立ち向かうことはできる。しかし今自分は蛙たちが生息する沼にすとんと落ちてしまったのだ。ここは自分がいるべき場所ではない。運悪く蛙のテリトリーに迷い込んでしまった被捕食者なのだ。
 冷静になれと伊藤は自分に何度もそう言った。もう一度状況を確認する。確かここは碧の別荘のあの部屋だ。周りを見回してみる。背筋が凍り着いた。辺り一面青一色なのだ。ドアも見えない。あの小さな照明器具も見当たらない。
 一面が青、つまり青い蛙は床だけでなく部屋の壁にも張り付いているということだ。伊藤の逃げ道が一つ一つ消されていく。
 この青い蛙たちの目的とは? 考える必要なんかない。確実に自分はこの青い蛙たちに食べられてしまう。伊藤は気が狂いそうになった。何度か大きな声も出した。
「助けてくれ!」
 伊藤ははっきりそう叫んだ。けれど、ここには誰も助けに来ないだろう。自分は蛙の獲物になってしまった。
/346ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ