この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
千一夜
第19章 第四夜 線状降水帯 ③
 このまま長椅子に座っていたところで何かが好転するとは思えない。伊藤は立ち上がった。足元に妙な感覚が残る。あの青い蛙たちを踏みつけた感触。ぐにゅっと蛙がつぶれていく感じがダイレクトに伝わってくる。こんな風に蛙を全部踏みつぶしてしまえば逃げることもできるかもしれない。が、如何せん多勢に無勢。無数の蛙相手に勝てる見込みがない。暗闇の中蛙たちがどれくらいいるのか正確にその数がつかめない。
 伊藤は立ち上がり、自分の体を這い上ってくる蛙たちを手で払い続けた。青い絨毯の中に蛙たちが落ちても、伊藤の足元で難を逃れた蛙たちが自分の脚にを上ってくるのがわかる。永遠にこんなことをしてはいられない。
 伊藤はもう一度部屋の中を見回した。青、そして青、また青。伊藤は初めて絶望を味わった。
 ふっと天井を見上げてみた。真っ暗で天井が見えない。が、窓が一つだけ見えた。窓の向こうに星が一つだけ光っていた。伊藤はすでに方向の感覚を失っていた。どちらが北でどちらが南なのかわからない。すがれるものはあの窓だけ。あの窓の向こうにさえ行けば、この蛙たちに食われることはないだろう。伊藤は方向感覚だけでなく正確に長さを計ることができない。つま先立ちしても窓の高さは変わらなかった。
 たとえあの窓の高さが五十mあったとしても、伊藤の望みの綱はあの窓しかない。どうすればあの窓に辿り着くことができるだろうか。そのとき伊藤の目の前に何かが見えた。それは机だった。とてもシンプルな机。天板を四本の脚で支えているだけの机。
 とにかくあの机の上に上がろう。上がったところで自分が蛙に食われる時間が少しだけ先になるだけだ。伊藤は何十匹もの蛙を踏みつぶして机の上に上がった。もちろん何十匹もの蛙に足を噛まれた。足に嚙みついている蛙を伊藤は手で払う。上を見上げると、ロープのようなものが垂れていた。机の上でジャンプすればロープに飛び付けるかもしれない。あのロープは現代版の蜘蛛の糸? 
 あれにつかまり、体を揺らしてその反動で窓まで飛んでいける? 無理だ。無理でも今はそれをするしかない。生きる道はロープと窓。
 あの名作の最後が思い出せない。ハッピーエンドで終わったに違いない。伊藤の心が落ち着いた。死ぬときはこんな感じなのか。伊藤はロープを目掛けて思い切りジャンプした。宙に舞った伊藤の顔の前に一匹の蛙が現れた。蛙は笑っていた。
/339ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ