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千一夜
第20章 第四夜 線状降水帯 ④
 誰なのかすぐにわかった。ブルーのショルダーバックを肩に掛けた沢井ゆかりが立っていた。ジーンズに黒っぽいTシャツを着ていた。
 車のエンジンを切り、伊藤は車内で一つ大きくため息をついた。役が貰えない女優の営業。まさか沢井ゆかりがそんなことをするとは思ってもみなかった。伊藤は失望した。目を付けていた女優の卵は、仕事のために簡単に男と寝る女優志願の女と変わらなかった。
「ちょっと待ててくれる」
 伊藤は車から降りてゆかりにそう言った。
「……」
 ゆかりは何も答えなかった。
 別荘の鍵を取り出して伊藤が玄関に向かった。
「部屋の中暑いからここで少し待っててくれ。クーラーつけてくるから」
「はい」
 ゆかりは返事をした。
 別荘の中に伊藤が入っていく。一階はリビングキッチン。二階は寝室。一階にも二階にもテラスが付いているが、海を眺めるためなら断然二階がいい。
 伊藤はリビングの証明とクーラーをつけた。
「どうぞ」
 伊藤は玄関の戸を開けてゆかりにそう言った。
「お邪魔します」
 ゆかりは軽く頭を下げて伊藤の別荘に入った。
「どこでも好きなとこに座って」
「はい」
 リビングのソファにゆかりは座った。
「何か飲む?」
 伊藤は冷蔵庫を開けて中を確認した。
「お構いなく」
「やばい、ビールしかないわ。今デリバリーで何か頼むよ。何が食べたい?」
「本当にお構いなく」
「こんな時間なんだからお腹空いてるでしょ」
 時間は午後の八時を少し回ったところだ。
「……ちょっと」
「適当に頼んでいいよね」
「はい」
 若い女の食の好みなんてわからない。伊藤は取り合えず女子が好きそうなものをスマホのアプリを使ってオーダーした。
「よいしょ」
 最近椅子に座るときそんな声を出してしまう。四十はもう爺なんだと伊藤は苦笑いした。
 伊藤はテーブルを真ん中にしてゆかりの正面に座った。そしてゆかりの履歴書とオーディション写真をテーブルに置いた。訊きたいことはいろいろある。でも伊藤はあえてこの質問から始めることにした。
「お芝居の勉強はしたかな?」
 伊藤は以前のオーディションでゆかりにこう言ったのだ「劇団でも何でもいい、とにかく誰かから芝居を教えてもらいなさい」と。
「してません」
「僕のアドバイスは無視したということだね」
「すみません」
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