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千一夜
第20章 第四夜 線状降水帯 ④
「君はどんなオーディションでも最終選考までは残るかもしれない。でもこのままではまた落ちると思うよ。今現在の君の演技力はわからないけど」
「すみません」
「失礼だけど、真剣に役者をやろうという気はあるの?」
「……」
「僕には君のやる気が見えないな。折角最終選考まで残るのにさ、もったいないね」
「……」
「パワハラだと思われてもいい。君はまだ若いんだから役者以外の違う道を探してみたら。君なら何でもできるだろ」
「……」
 伊藤はテーブルに置いた履歴書を取った。
「高校を出たばかりなんだよね」
「はい」
「大学には行かなかったんだ」
「はい」
「今何してんの?」
「カフェでアルバイトしてます」
「どこのカフェ?」
「六本木です」
「カフェの名前は?」
「……ええと」
「本当にカフェなの?」
「……」
「本当は何しているの?」
「ガールズバーで働いています」
「ガールズバーか」
「すみません」
「君の人生だ」
 自分には関係ないと伊藤は続けるつもりだったが、途中でやめた。
「あの……」
「何?」
「伊藤さんのところで働かせてもらえませんか。お芝居も伊藤さんに教えてもらいたいんです」
「はっきり言うけど、君に芝居を教えている時間は僕にはない。それに僕のところで働きたいと言っても君は何ができるの? 僕の会社のスタッフはみんなプロフェッショナルだ。アマチュアを雇うことは絶対にない」
「……」
 厳しく言っているのはこの子のためだ。伊藤はこんな気持ちになるのは初めてだった。穿いて捨てるほど役者を目指している女を知っている。その女たちが俳優になろうが、挫折して田舎に帰ろうが、伊藤にとってはどうでもいいことだ。でもどういうわけか沢井ゆかりだけは何かが引っかかった。
 ゆかりの受け答えも伊藤の心をつかんだ。役のためなら伊藤と寝てもいいという女たちは、とにかく伊藤に媚を売り、どこまでも伊藤に従順だった。
 ゆかりは違った。ゆかりは思ったことをそのまま伊藤に話している。確かにすぐにばれるような嘘はついたが、そこに悪気を感じない。
 どうしたらいい。伊藤はゆかりの履歴書に目を落として考えた。どうしてだろう、このままゆかりを手放したくない。
 会話が途切れた。それから三十分ほどしてデリバリーサービスのスタッフが、伊藤の別荘のチャイムを鳴らした。チャイムが重い空間を溶かした。
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