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千一夜
第20章 第四夜 線状降水帯 ④
 伊藤は朝食をとるために海辺のホテルに車で向かった。途中コンビニでいつも読んでいる全国紙とスポーツ新聞を一部ずつ買った。ニュースなんてスマホの方が紙媒体より早いということはわかっているが、新聞を広げゆっくりと紙面の記事に目を通すことが、伊藤の休日の楽しみの一つになっている。
 最近新聞を広げている人間を見ない。だからというわけではないが、伊藤はあえて新聞を広げる。
 コンビニの駐車場やホテルの駐車場に車をとめると、いつも誰かからじろじろ見られる。アストンマーティンはたとえ都会でも誰かの目を惹きつけている。ホテルの駐車場に入るときから若いカップルや家族連れの親子に遭遇した。彼らは必ず好奇な目を運転席の伊藤に向ける。子供からは指を指された。もちろんそれは伊藤ではなくアストンマーティンだった。
 マナーモードにしたスマホと新聞二部を持ってホテルに入る。このホテルで朝食をとるためには予約が必要だ。伊藤が名前を言うとホテルの従業員が伊藤を席に案内した。いつものバルコニー席。
 メニューは天然酵母のパンとサラダ、オムレツにベーコン。地のトマトを使ったジュースとポットに入っているコーヒー。シンプルだが新鮮で丁寧に作られていてとても美味しい。
 伊藤は二杯目のコーヒーを飲みながら、スポーツ紙の一面にまた目を落とした。贔屓チームの四番打者がホームランを打ったのだ。一面を飾る四番打者の笑みが伊藤の心を和ませた。
 できることなら潮の香りを感じてもう少しここにいたい。まだ目を通していない記事もある。ポットのコーヒーだってまだあるだろう(なければ追加で注文すればいいのだ)。だが、朝食でこの特等席を独り占めするのは少しだけ憚られる。伊藤は席を立つ前に大きく深呼吸を一つした。会計を済ませてレストランを出る。
 伊藤が駐車場にとめたアストンマーティンを見ると、ライダー姿の若い男二人が車の周りをうろうろしていた。
「あの、何か?」
 伊藤が男たちにそう声を掛けた。
「すみません、エンジンの音聴かせてもらっていいですか?」
「構いませんよ」
 伊藤が車に乗り込みエンジンをかけた。一つ二つ、伊藤は彼らのためにアクセルを強く踏んで空ぶかしした。
「すげー」
「それじゃあ失礼します」
「ありがとうございました」
 バックミラーにはしばらくアストンマーティンを見送る男二人が映っていた。
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