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千一夜
第20章 第四夜 線状降水帯 ④
 会社社長、プロデューサー、作家、脚本家、演出家、投資家……伊藤の仕事は多岐にわたるが、伊藤の名刺の肩書には代表取締役とだけ書いてある。
 伊藤の会社の者は伊藤を社長と呼ぶ。ところが、伊藤はある者達からは先生と呼ばれている。例えば売れない役者や弱小劇団の主催者から、そしてスタイリストの助手からも。
 篠田燈は有名スタイリスト香苗さゆみの助手をしている。香苗から見事なまでにこき使われている燈に伊藤は目をつけた。現場で見かけた燈に伊藤の方から声をかけ(つまりなんぱして)、伊藤は燈と何度か寝た。
 燈には付き合っている男がいる。テレビにも映画にも出たことがない燈より六つ年上の二十八の自称役者だ。
 一度だけ伊藤はこの自称役者の芝居を見たが、間違いなく十年経とうが二十年経とうが、この男から自称が取れることはない。
 彼氏の活躍の場を求めるために燈は伊藤と寝たのではない。燈の男の芝居を見たのは伊藤の興味からだった。自分が惹かれている女の彼氏の芝居、伊藤はそれが見たかったのだ。伊藤は見ていて笑いそうになった。本も演出もだめ。芝居は燈の男だけでなくすべての演者の芝居が児童劇団以下の出来だった。早晩この劇団は解散することになるだろう、そう伊藤は思った。
 伊藤は燈にこう言った。
「君の彼氏には役者の才能がない。まだ若いのだから別の道を探した方がいい。ずるずる引きずっても無駄に時間が過ぎていくだけだ」と。
 燈が彼氏に伊藤の言葉を伝えたかどうかわからないが、燈の彼氏はまだ芝居を続けている。
 素朴で素直な燈に伊藤の心は揺れる。ショートカットの燈はいつもジーンズをとシャツという格好をしている。
 香苗からはいつもスタイリストがそんな格好しててどうするのと小言を言われている。どの世界でもそうだが、助手が手にするお金なんてわずかなものだ。わずかなお金で香苗が要求する服を買うことなんてできない。まして収入ゼロの役者志望の彼氏が燈にぶら下がっている。
 燈の生活が楽なはずはない。だから伊藤は燈に「困ったら何でも言いなさい」といつも言っていた。でも燈は「ありがとうございます」とだけ言って、伊藤の援助は断り続けた。
 伊藤は燈から断られる度に心が痛んだ。伊藤は援助するから自分の女になれとは燈には言っていない。その言葉を燈に掛けようとするたびに伊藤の中で待ったがかかった。
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