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千一夜
第22章 第四夜 線状降水帯 ⑥
 休暇が終われば仕事が始まる。伊藤が自分の仕事を嫌になることは一度もなかった。それでも会社の規模が大きくなるにつれて、伊藤の責任の範囲は広くなっていった。
 ドラマを作り映画を撮る、舞台作品を創作するときは、それらのすべては伊藤の頭の中できちんと整理されていた。
 それがCM制作の依頼がやってくるようになり、MVやPVまで仕事が舞い込んでくると、社員の数は増え、その作業の隅々まで伊藤の目は及ばなくなっていった。
 伊藤の会社はすでに出資してもらった金はすべて返済し、逆に伊藤の会社そして伊藤個人は出資する側になっていた。有利子負債ゼロ。だいぶ前からある証券会社からは、上場の話を持ち掛けられている。
 企画提案、打ち合わせ、会議、指示命令、そして経営。すべてが順調だったが、伊藤は心身ともに疲れていた。才能あるクリエーターも伊藤の会社の中に何人か出てきている。
 伊藤は若い芽を伸ばすことはあってもつぶすようなことは決してしない。自分よりも優れたアイデアがあれば、何のためらいもなくそれを採用する。それは伊藤の苦い経験がそうさせているのだ。
 若いとき、伊藤は何度もわけのわからない力でつぶされそうになった。全く気付かなかったわけではないが、この世界には妬みや嫉みが醜く蠢いている。伊藤はそれを知ると一層真摯に芝居つくりに邁進した。伊藤の成功があるのはそのせいだ。とにかく若い才能育てなければならない。
 五十になったら伊藤は一線から身を引くことを考えていたが、どうやらその時期は早まるかもしれない。それならばそれでいいと伊藤は思っている。だが、伊藤には一つだけ未練があった。
 香苗が言った、100点満点の仕事を自分はまだしていない。誰かにこの会社を引き継いでもらう前にどうしても100点満点の芝居を作りたい。そう考えることが、伊藤には多くなった。
 引退したら冬はスノボに出かけ、そして夏は船で海に出る。伊藤はそのために小型船舶一級の免許を取得した。春と秋はジャズを聴きにアメリにか行く。もちろんアメリカでも好きな酒は飲むし、そのときは女を連れていくだろう。そう思うだけで伊藤の心は癒される。早くそうなりたいと思う気持ちと、まだまだドラマを作るという気持ちが伊藤の中で揺れる。しかし、自分はまだ100点満点の仕事をしていない。
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