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第22章 第四夜　線状降水帯　⑥

　Ｓコーヒー店の前でセミロングの髪をミルクティーグレージュに染めた高倉希が立っていた。希の脇には小さなピンク色のキャリーケースがあった。身長は百六十㎝くらい、シルバーのミニワンピースがボリュームのある希の体をぴっちり包んでいる。胸と尻を見てくれと言わんばかりの希の体は男の目を惹きつける。もちろん伊藤の目も希の豊満な胸に行った。悪くない胸だと伊藤は思った。
「君、高倉さんだよね」
　伊藤はネットで一度希のことを検索していた。
「はい。高倉希です」
「待たせてごめんね」
「全然」
　長いつけまが綺麗に整っている。そのせいか希の目が伊藤には大きく見えた。鼻は高く、濡れた赤いルージュが口元をいやらしく演出していた。キャリーケースさえなかったら間違いなく高倉希は都会の堕天使だろう。
「それ、僕が持つから」
　伊藤はそう言って希のキャリーケースのハンドルに手を伸ばした。
「だめです。お客さんに……あっ、とにかく私が叱られてしまいます」
「高倉さん、それを持つことは一つは僕のため、二つは君のため。僕が持たなかったら僕はジェントルマンになれないんだよ。わかる？」
「……はい」
　希はキャリーケースを伊藤に渡した。
「少し歩くけど、そんなに遠くはないから」
「はい」
　希は伊藤の後に続いて歩いた。
　港ヒルズレジデンスのエントランス。伊藤はカードキーをリーダにかざして中に入った。フロントが見えた。それから三つのセキュリティを通って二人は伊藤の部屋に入った。
「どうぞ」
「失礼します」
「キャリーケースはここに置いておくから」
　伊藤は玄関に希のキャリーケースを置いた。松原が言った通り、気に入らなかったら希には帰ってもらう。
　リビングのソファに伊東が腰を下ろした。
「君も座って」
「はい」
　伊藤が希にそう言うと、希は伊藤に頭を下げてから伊藤の正面に座った。
「いくつか質問するけどいいかな？」
「あの、その前に社長に見ていただきたいものがあるんですが」
「見ていただきたいもの？」
「はい」
「わかった。じゃあそれ見せてよ」
　希は立ち上がって玄関に置いたキャリーケースのところに行った。ケースを開けて中から封筒を取った。それを持って希は伊藤のところに戻った。
　希が封筒を伊藤に渡した。伊藤がそれを受け取り中から二枚の紙を取り出すと、それは希の履歴書と健康診断書だった。