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千一夜
第22章 第四夜 線状降水帯 ⑥

伊藤は希の健康診断書のまず目を通した。どうやら高倉希という名前は本名で、妙な病気には感染していないことはわかった。
次に伊藤は履歴書を取った。実に簡単な履歴書だった(それを履歴書と言っていいのかわからないようなものだった)。名前と生年月日と携帯の番号。住所は書かれていなかった。学歴欄にも某高校を卒業したと言うことだけが記されていた。
ところがここからが面白かった。伊藤がこんな履歴書を見るのは初めてだ。特技の欄にはこう書かれていた。料理、そしてとにかく若いと。伊藤は思わず吹き出しそうになった。とにかく若い、これが希の売りのポイントなのだろう。まぁ、若いということが特技になるかどうかはわからないが。
そして普通の履歴書には書かれるはずがないものが書かれていた。それを読むと、希の初体験は十四歳のときで、それから今までの男の経験は三人だということだ。ちなみに希には今付き合っている彼氏がいるそうだ。
「じゃあ質問するね。答えたくなかったら答えなくてもいいから」
「はい」
「君のお父さんはいくつなの?」
「多分四十くらいだと思います」
「多分? ってどういうこと?」
「父とはあまり話したことがないんで、それに」
「それに?」
「父の誕生日を忘れてしまいました」
それぞれの家庭にはそれぞれの事情がある。
「僕も君のお父さんと同じ四十だ。お父さんと同じ年の男と君はセックスすることになるけど、それでいいの?」
「……大丈夫です」
希は逡巡してそう言った。
「四十の男とセックスするのは初めて?」
「はい」
「契約すれば、少なくとも一か月は僕だけに抱かれるんだけど、大丈夫?」
「大丈夫です」
「その間は彼氏に会えないよ」
「我慢します」
「我慢しますか……、一か月会えない彼氏には何て言うの?」
「……仕事」
確かに希にとっては伊藤に抱かれることが仕事になる。
「それで君の彼氏は納得する?」
「すると思います。してもらわないと困ります」
何かの事情は高倉希にもあったのだ。
「ひょっとして君の彼氏ってホスト?」
「違います」
希は少し大きな声で否定した。
「君の彼氏って何してるの?」
「レーサー」
「レーサー……?」
希が彼氏をレーサーだと言っても伊藤にはピンとこなかった。
「レーサーはレーサーです」
「それって車のレーサーのこと?」
「はい」
次に伊藤は履歴書を取った。実に簡単な履歴書だった(それを履歴書と言っていいのかわからないようなものだった)。名前と生年月日と携帯の番号。住所は書かれていなかった。学歴欄にも某高校を卒業したと言うことだけが記されていた。
ところがここからが面白かった。伊藤がこんな履歴書を見るのは初めてだ。特技の欄にはこう書かれていた。料理、そしてとにかく若いと。伊藤は思わず吹き出しそうになった。とにかく若い、これが希の売りのポイントなのだろう。まぁ、若いということが特技になるかどうかはわからないが。
そして普通の履歴書には書かれるはずがないものが書かれていた。それを読むと、希の初体験は十四歳のときで、それから今までの男の経験は三人だということだ。ちなみに希には今付き合っている彼氏がいるそうだ。
「じゃあ質問するね。答えたくなかったら答えなくてもいいから」
「はい」
「君のお父さんはいくつなの?」
「多分四十くらいだと思います」
「多分? ってどういうこと?」
「父とはあまり話したことがないんで、それに」
「それに?」
「父の誕生日を忘れてしまいました」
それぞれの家庭にはそれぞれの事情がある。
「僕も君のお父さんと同じ四十だ。お父さんと同じ年の男と君はセックスすることになるけど、それでいいの?」
「……大丈夫です」
希は逡巡してそう言った。
「四十の男とセックスするのは初めて?」
「はい」
「契約すれば、少なくとも一か月は僕だけに抱かれるんだけど、大丈夫?」
「大丈夫です」
「その間は彼氏に会えないよ」
「我慢します」
「我慢しますか……、一か月会えない彼氏には何て言うの?」
「……仕事」
確かに希にとっては伊藤に抱かれることが仕事になる。
「それで君の彼氏は納得する?」
「すると思います。してもらわないと困ります」
何かの事情は高倉希にもあったのだ。
「ひょっとして君の彼氏ってホスト?」
「違います」
希は少し大きな声で否定した。
「君の彼氏って何してるの?」
「レーサー」
「レーサー……?」
希が彼氏をレーサーだと言っても伊藤にはピンとこなかった。
「レーサーはレーサーです」
「それって車のレーサーのこと?」
「はい」

