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千一夜
第23章 第四夜 線状降水帯  ⑦
 希は伊藤の試験に合格した。もちろん伊藤と希が交わった翌日、希は得意だと言った茶わん蒸しを伊藤に披露した。
 伊藤は美味しいと思った。希が作った茶碗蒸しは有名料理店のものに引けを取らないものだった。ほんのりと希が育った家庭の味がした。それに料理するときの希の手際が見事だった。それは一月や二月で身に付けられるものではない。希は嘘を言ってなかった。希の母親はしっかりと希に家庭の味を伝えていたのだ。
 そしてベッドの中でも希は伊藤を満足させた。伊藤が疲れてベッドの上で大の字になる。そんな伊藤の服を希は一枚一枚剥ぎ取り、伊藤の乳首を舐め肉棒を握ると、さっきまで伊藤を覆っていた疲れがどこかに行ってしまい、硬くなった伊藤の性器は希のま×こを求めた。
 一月だった契約が二月になりそして三月になっていった。当然の結果として希は付き合っていた彼氏と別れることになった。しかし、希に後悔など一つもなかった。お金を貢ぐ生活からお金に囲まれる生活になると、付き合っていた男の小ささに気づいたのだ。
 伊藤と一緒ならクレジットカードの引き落とし日が気にならない。それどころか自分の銀行口座には信じられないくらいのお金が毎月振り込まれる。
 希の中で伊藤の存在が大きくなっていった。最初は彼のためお金のためと我慢して伊藤に抱かれていたが、今では夕食を作りながら伊藤を待つことに喜びを感じる。伊藤がお酒と女の匂いを持ってきたとき、希は嫉妬した。希は自分の父親と同じ年の伊藤に惹かれていった。このままずっと伊藤と暮らしたい。お姫様になったようなレジデンスの暮らしから離れたくない。
 伊藤が操るアストンマーティンの助手席に座って首都高を走ったとき、希はようやく何かに勝ったような気がした。しかし、同時に不安も希を襲った。
 車内で伊藤と希はこんな会話をしたのだ。
「パパはどうしてベンツに乗らないの?」
 希の問いかけに伊藤はこう答えた。
「ベンツは確かにいい車だ。非の打ち所がない完璧な車だ。でも」
「でも」
 希は「でも」の続きが気になった。
「でも飽きたよ」
 アストンマーティンの助手席で希の体は凍った。息もできなくなった。「でも飽きたよ」
自分も飽きられたら契約は更新されない。お姫様の生活と確実に振り込まれる大金を失わなければならない。もっと大事なことは好きになりかけている伊藤と別れなければいけないのだ。
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