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千一夜
第23章 第四夜 線状降水帯  ⑦
 金があっても時間はなかった。順摂りのスケジュールはすでに破綻していた。伊藤は別シーンの現場でカメラを覗いていた。そのときだった。エキストラの中に見覚えのある役者が伊藤の目に入ったのだ。
 伊藤はカメラを止めた。そしてその役者、沢井ゆかりを呼んだ。
 不思議だった。伊藤は何度もエキストラの応募書類に目を通していたのだ。その中に沢井はいなかった……はずだ。だが今伊藤にそのことを考える余裕はない。伊藤は沢井と別室に移り、静香が演じるはずだった役の台本を沢井に渡した。
「そこ読んでみてくれ。もちろん気持ちを入れいて、わかったか?」
「はい」
 ゆかりは台本を受け取ると、数分その台本を黙読していた。それからゆかりは伊藤の指示通りに静香が演じるはずだった役の芝居を伊藤の前でした。
 予想はしていたが、すぐに演じられるものではない。だが、ゆかりは明らかに静香より上だった。でもこのままではカメラは回らない。伊藤の頭の中に一人の女が浮かんだ。伊藤はゆかりの前でその女に電話した。
「もしもし僕だが」
「伊藤」
 伊藤は香苗に電話したのだ。
「頼みがある」
「頼み? 何よそれ」
「ある役者に芝居を教えて欲しい」
「はぁ? 私が芝居を教える? 冗談じゃないわよ。私はスタイリストなのよ」
「わかってる」
「スタイリストが役者に芝居を教えることなんかできるわけないじゃない」
「君だって学生時代は芝居をしてただろ」
「何十年前の話よ」
「君はいつも僕の芝居に文句言ってた」
「だってむかつくんだもん伊藤が。いつも偉そうでさ」
「偉そうな僕が君に頼んでいる。頼む」
「何だか必死ね。ざまぁみろだわ」
「ざまぁみろでも何でもいい。頼む」
「……」
 沈黙。それが十秒くらい続いたろうか。
「香苗、頼む」
「条件があるんだけど」
「何でも言ってくれ」
「燈とは別れて欲しいの。ていうか燈を電話で呼び出したりしないで欲しい。いや、二度と燈に関わるな、どう?」
「それは売れない役者に言った方がいいんじゃないか」
「そうね、今度言ってみる。で、伊藤はどうなの? 燈と別れることができる?」
「条件じゃなくて命令だろ」
「その通り。私が伊藤に命令しているの。最高の気分だわ」
「わかった」
「いつから?」
「明日」
「了解」
「もう一つ頼みがあるんだが」
「何?」
「僕の会社の社外取締役になってくれ」
「お断り」
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