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千一夜
第23章 第四夜 線状降水帯 ⑦

「そう。そのまぁまぁの本で最高の作品を作り上げるわ」
「ふん」
「伊藤、腹を決めなさいよ。伊藤が書いた本よ。そして伊藤の会社が作るドラマ。まだ伊藤にも少しは力があるでしょ。伊藤、どうする?」
「わかった。まぁまぁの本で最高の作品にしてくれ」
「それと、燈だけじゃなくてゆかりに手を出したらただじゃすまないわよ。あっ、その心配はないか。伊藤には大事な彼女がいるもんね」
「彼女? 僕に?」
「伊藤、伊藤の住んでいるレジデンスというお屋敷のどこかにスパイがいるかもしれないから気を付けた方がいいわよ。スパイは耳をそばだてて、忍びのようにひっそりとどこかに隠れて伊藤と伊藤の女を見ているの、そしてあることないことを世間に向けて言いふらす。それはこの業界の常識。伊藤だったらわかるでしょ、この世界で伊藤は長く生きてるんだから」
「ああ」
「誤解してほしくないんだけど、これは伊藤のためではなくて、これから私が取締役を務める会社を守るために伊藤に忠告しただけ」
「……了解だ」
どちらが先に電話を切ったのかわからない。
現場で伊藤が香苗に会っても、挨拶無しでせいぜい一言二言何かを話すだけだった。電話ではあったが、伊藤がこれだけ長く香苗と話すことは学生時代以来だった。
伊藤は電話を終えると大きくため息をついた。すべては順調、仕事もプライベートも問題はなかった。ところが、伊藤は私的な問題を抱え込むことになったのだ。伊藤は希に子供ができたと打ち明けられたのだ。
契約だけの女だったが、契約はいつの間にか無期限に更新されていた。伊藤も希もそれは当たり前のこととして受け入れていた。避妊はしているはずだった。いや、これは伊藤が勝手に思い込んでいたことだ。希も契約当初は避妊に注意を払っていたが、付き合いが長くなるにつれて、希にとって伊藤は契約だけの関係から一人の男に変わっていったのだ。希はこう思った。伊藤の子供が欲しい
希は伊藤に打ち明けたときのことを覚えている。子供ができたと言ったとき、伊藤は不思議な顔をしていた。希の妊娠を怒った顔ではない、かと言って子供ができたことを喜んでいる顔でもない。不思議そうな顔、そう、希は初めて伊藤の動揺した顔を見たのだ。
動揺した顔を数十秒希に向けた後、伊藤は不思議な行動に出た。伊藤は希が妊娠したことを自分の実家に電話で連絡したのだ。
「ふん」
「伊藤、腹を決めなさいよ。伊藤が書いた本よ。そして伊藤の会社が作るドラマ。まだ伊藤にも少しは力があるでしょ。伊藤、どうする?」
「わかった。まぁまぁの本で最高の作品にしてくれ」
「それと、燈だけじゃなくてゆかりに手を出したらただじゃすまないわよ。あっ、その心配はないか。伊藤には大事な彼女がいるもんね」
「彼女? 僕に?」
「伊藤、伊藤の住んでいるレジデンスというお屋敷のどこかにスパイがいるかもしれないから気を付けた方がいいわよ。スパイは耳をそばだてて、忍びのようにひっそりとどこかに隠れて伊藤と伊藤の女を見ているの、そしてあることないことを世間に向けて言いふらす。それはこの業界の常識。伊藤だったらわかるでしょ、この世界で伊藤は長く生きてるんだから」
「ああ」
「誤解してほしくないんだけど、これは伊藤のためではなくて、これから私が取締役を務める会社を守るために伊藤に忠告しただけ」
「……了解だ」
どちらが先に電話を切ったのかわからない。
現場で伊藤が香苗に会っても、挨拶無しでせいぜい一言二言何かを話すだけだった。電話ではあったが、伊藤がこれだけ長く香苗と話すことは学生時代以来だった。
伊藤は電話を終えると大きくため息をついた。すべては順調、仕事もプライベートも問題はなかった。ところが、伊藤は私的な問題を抱え込むことになったのだ。伊藤は希に子供ができたと打ち明けられたのだ。
契約だけの女だったが、契約はいつの間にか無期限に更新されていた。伊藤も希もそれは当たり前のこととして受け入れていた。避妊はしているはずだった。いや、これは伊藤が勝手に思い込んでいたことだ。希も契約当初は避妊に注意を払っていたが、付き合いが長くなるにつれて、希にとって伊藤は契約だけの関係から一人の男に変わっていったのだ。希はこう思った。伊藤の子供が欲しい
希は伊藤に打ち明けたときのことを覚えている。子供ができたと言ったとき、伊藤は不思議な顔をしていた。希の妊娠を怒った顔ではない、かと言って子供ができたことを喜んでいる顔でもない。不思議そうな顔、そう、希は初めて伊藤の動揺した顔を見たのだ。
動揺した顔を数十秒希に向けた後、伊藤は不思議な行動に出た。伊藤は希が妊娠したことを自分の実家に電話で連絡したのだ。

