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千一夜
第23章 第四夜 線状降水帯 ⑦

伊藤がタクシーの後部座席に座り、車が発進すると伊藤の携帯が鳴った。伊藤が小さな画面で発信者を確認する。伊藤は運転手に聞こえないように小さく舌打ちをした。
「何?」
「お兄様、ご結婚おめでとうございます」
電話は伊藤の妹からだった。
「誰が結婚するんだ?」
「お兄様、式は海外で挙げるんだよね?」
「気持ち悪いからお兄様はやめろ」
「そんなのどうでもいいよ。でね、ハワイとかってワンパターンじゃない。だからスペインで結婚式ってどう?」
「お前がスペインに行きたいだけだろ。それに僕は結婚なんかしない」
「お兄様、じゃなくてお兄ちゃん、それはもう無理。母さんが親戚中に電話しまくっているんだから、これで結婚しませんじゃ伊藤家の親戚一同が黙ってませんよ。お兄ちゃん諦めることね」
「僕は伊藤家親戚一同のために生きているんじゃない」
「伊藤家の親戚一同はもう兄貴の結婚式のことで絶賛盛り上がり中なんだから、結婚しないなんて言ったらその瞬間兄貴は伊藤家の親戚を敵に回すことになりますよ」
「構わない」
「こっちが構うのよ」
「それよりお前に頼みがある」
「何でも言って。報酬は沖縄旅行でいいから」
「ふざけるな」
「まじなんだけど」
「親父とお袋を迎えに来てくれ」
「父さんと母さん、まだお兄ちゃんの家にいるの?」
「ああ、いるなんてもんじゃない、堂々と居座ってる」
「ふふふ、何だか笑えるんですけど」
「笑い事じゃない。毎日聞くお袋の皮肉と嫌味で気が変になりそうだ」
「ご愁傷様」
「頼む」
「そんなのお兄ちゃんが追い払えば済むことでしょ」
「追い払っても二人とも出て行かないんだ」
「だったら私じゃ無理よ」
「沖縄旅行したくないのか?」
「うん~ん……やっぱり無理。セキュリティの人に頼めば?」
「追い出したいのが両親と言った時点で終わりだ」
「だよね、お兄ちゃんも大変だね」
「ようやく僕の苦労がわかったか」
「お兄ちゃん、苦労なんかしてたの?」
「もういい。お前に頼ろうとした僕がバカだった」
「失礼ね。後で母さんには電話でやんわり言っておくわよ」
「そうか、助かる」
「成功報酬お忘れなく」
「わかった」
「それともう一つ、私をお兄ちゃんの会社の役員にしてよ」
「ふざけるな」
伊藤はそう言って電話を切った。
タクシーが新宿のホテルに着いた。
「何?」
「お兄様、ご結婚おめでとうございます」
電話は伊藤の妹からだった。
「誰が結婚するんだ?」
「お兄様、式は海外で挙げるんだよね?」
「気持ち悪いからお兄様はやめろ」
「そんなのどうでもいいよ。でね、ハワイとかってワンパターンじゃない。だからスペインで結婚式ってどう?」
「お前がスペインに行きたいだけだろ。それに僕は結婚なんかしない」
「お兄様、じゃなくてお兄ちゃん、それはもう無理。母さんが親戚中に電話しまくっているんだから、これで結婚しませんじゃ伊藤家の親戚一同が黙ってませんよ。お兄ちゃん諦めることね」
「僕は伊藤家親戚一同のために生きているんじゃない」
「伊藤家の親戚一同はもう兄貴の結婚式のことで絶賛盛り上がり中なんだから、結婚しないなんて言ったらその瞬間兄貴は伊藤家の親戚を敵に回すことになりますよ」
「構わない」
「こっちが構うのよ」
「それよりお前に頼みがある」
「何でも言って。報酬は沖縄旅行でいいから」
「ふざけるな」
「まじなんだけど」
「親父とお袋を迎えに来てくれ」
「父さんと母さん、まだお兄ちゃんの家にいるの?」
「ああ、いるなんてもんじゃない、堂々と居座ってる」
「ふふふ、何だか笑えるんですけど」
「笑い事じゃない。毎日聞くお袋の皮肉と嫌味で気が変になりそうだ」
「ご愁傷様」
「頼む」
「そんなのお兄ちゃんが追い払えば済むことでしょ」
「追い払っても二人とも出て行かないんだ」
「だったら私じゃ無理よ」
「沖縄旅行したくないのか?」
「うん~ん……やっぱり無理。セキュリティの人に頼めば?」
「追い出したいのが両親と言った時点で終わりだ」
「だよね、お兄ちゃんも大変だね」
「ようやく僕の苦労がわかったか」
「お兄ちゃん、苦労なんかしてたの?」
「もういい。お前に頼ろうとした僕がバカだった」
「失礼ね。後で母さんには電話でやんわり言っておくわよ」
「そうか、助かる」
「成功報酬お忘れなく」
「わかった」
「それともう一つ、私をお兄ちゃんの会社の役員にしてよ」
「ふざけるな」
伊藤はそう言って電話を切った。
タクシーが新宿のホテルに着いた。

