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千一夜
第23章 第四夜 線状降水帯  ⑦
 伊藤のもう一人の女。それは伊藤が初めて抱いた女。伊藤が果てる瞬間にいつも現れる女、川上はるか。
 ただ不思議なことに(伊藤にとって)はるかが最近伊藤の前に現れなくなったのだ。それは伊藤と希の生活が始まったころだった。
 はるかが伊藤の前に現れなければ、感情のないはるかの目が伊藤に向かうことはない。それは伊藤にとっては喜ばしいことなのに、なぜか伊藤は戸惑った(伊藤は寂しささえ感じていた)。自分の都合で抱いて、そして付き合って、それからティッシュをゴミ箱に投げるようにして捨てた女。
 伊藤は抱いた女をすべて正確に覚えてはいない。一夜だけの関係の女だってたくさんいる。そんな女の名前なんか伊藤はいちいち覚えていないし、抱いた女の数を手帳に記すような愚かなことなど伊藤はしない。
 もちろん今交わろうとしているルナや部屋にいる希、そして燈のことをこの先忘れることはないだろう。そして初めての女、つまり川上はるかのことは生涯忘れることはない。
 伊藤はこう思っている。いつかはるかに償わなければならない日が来る。いつかはるかに頭を下げ、詫びなければならない日が来る。伊藤はそれが怖かったが、逃げることはできない。伊藤はその日が早く来ることを願うこともあれば、永遠に(それは無理な話だが)その日が来ないことを願うこともある。
 ひょっとしたら、こうしてルナを抱いているのも、束の間その恐怖から目を背けるためなのかもしれないと伊藤は思った。
 伊藤は全裸にしたルナ乳房を強く揉んで、そうしながら両方の乳首を交互にしゃぶった。伊藤はそれがもどかしくなると、豊満なルナの胸をギュッと寄せて左右の乳首を一気に口の中に含んだ。口の中に含んでしゃぶって吸って、それから甘噛みをした。
 同じことを伊藤は希にもする。どちらも悪くはないが、これだけは希の生意気な乳房よりもルナの柔らかな乳房の方が伊藤は好きだった。
 伊藤はルナの脇の下に顔を埋めた。舐めながらルナの匂いを嗅ぐ。そして希と比べる。そんなことをしている自分を伊藤は本物の獣だと思った。本物の獣、よくない響きだが、悪くはない。 
 伊藤の愛撫にルナの体が捻じれる。くすぐったいのか、それとも必死に快楽から逃げようとしているのか、それは伊藤にもわからない。というか、それすら考える余裕が伊藤にはなかった。伊藤の性欲がそれを凌駕したのだ。
 
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